日々の花

谷山 えまる

本を読まなくなった理由

 俺は風呂上がりに窓辺の椅子に座り、初夏の涼しい風にあたりながら本を読んでいた。先週、冒険者ギルドの図書コーナーから借りてきた本だ。

 俺はよくギルドの依頼を終えた後、図書コーナーで本を借りる。

 これまでの俺は家に帰って風呂に入った後、杖や防具の点検をするか寝るかしかやることがないので、大抵は借りた本を読んで過ごした。そして、二、三日後には読み終えて返却していた。

 しかし、ここ最近は借りた本を読み終えられないまま、貸し出し期限の一週間後に返すことが多くなった。

 その原因とも言える、聞いていて心地よい彼女らの会話が今日も耳に流れ込んで来る。

 「ルリちゃん、お湯入れてもらえる?」

 「はーい。あ、メルさん、茶葉の上から普通にかけちゃっていいの?」

 「ゆっくり、少しずつ入れてもらえると嬉しいかな」

 「はーい」

 「マサくん、お茶できたわ」

 「あいよ」

 俺は読んでいた本を座っていた椅子に置き、居間の丸テーブルに席を移した。

 「はい、どうぞ」

 「ありがとう」

 仕事で疲れた頭を蕩けさせるような優しく艶めかしい声とともに、大人のお姉さんみたいな雰囲気を醸し出す魔女、メルリアは入れ立てのハーブティを俺の前に置いた。

 「あ、二人ともこれ食べよ?」

 金髪を長く伸ばし、毛先を緩くカールさせ、尖った耳をいくつものピアスで飾ったギャルエルフ、ルリは自分の鞄から小さな木箱を取り出した。

 「なんだ?それ」

 「これわね〜…じゃーん!」

 ルリが木箱を開けるとクッキーが入っていた。

 「あら、美味しそうねえ。お茶にも合いそう」

 「でっしょ〜?今日の依頼の依頼主がお菓子屋の人で、依頼の後お菓子のことで話盛り上がっちゃってさ、そしたら帰り際にお見上げにってくれたの!マジあの人いい人、神!」

 「ほんとルリはいろんな人に好かれるよな」

 「マサっちもあたしのこと好き〜?」

 「ああ、好きだぞ」

 「へ?へえ…そっか…うん、ありがと」

 「ふふ、ルリちゃん、よかったわね?」

 「う、うん…」

 え?そんな反応されるとなんかこっちまで恥ずかしいんだが。

 「マサくん、私は?」

 メルリアが頬杖をつき、その豊満な胸をテーブルに乗せながら、はにかみながら問いかけてくる。

 「す、好きです…けど?」

 「ふふ、よろしい」

 「ちょっと!メルさんずるい!」

 「えー?何もずるくないわよ?普通に聞いただけだもの」

 「そのおっぱいは普通じゃないでしょ!」

 「普通よ。私の胸はこれが普通の大きさなの」

 「そういうことじゃないの!」

 そう言いながらルリがメルリアの後ろに回り込んだ。

 ガシッ!グニュ!

 「ちょっ!ちょっとルリちゃん…!…あっ!…ん!」

 「こうやって寄せて、上げたじゃん!しかもエッチな顔してた!」

 「こら!ルリちゃん、だめだって!…っん!…もう!仕返し!」

 「キャッ!」

 自分の胸からルリの手を引き剥がし、振り返って、十分に大きく綺麗な形をしたルリの乳房を鷲掴みにする。

 目の前で女性陣の激しい攻防戦が繰り広げられている。

 その光景を見ながら俺はずずずっとハーブティを啜った。

 これがここ最近本を読まなくても良い理由。

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