教官・楠田 知恵の再動
「やっほー堂島さぁん。ちょっくら頼みがあってきたよー。
『テレポートボム』ちょーだい。」
「…突然来てさらっと何言ってんのキミ。メガネ割るぞ。」
知恵は、基地の敷地内にある
『科学技術局』に来ていた。
ここは、ラージナンバースクワッドで使われる武器・道具・ヒーロースーツ等、ありとあらゆるアイテムを開発する、とんでもないオーバーテクノロジーを有した部署である。
暑内はその肩書きに恥じない、近未来感漂う謎のマシン、謎の器具、怪しげな雰囲気で満ち溢れている。
そして、
「見た目はヤバいくらいマッドだけど、
中身は『真面目』を絵に描いたような人間」
と巷でウワサの、ボサボサ頭にクマだらけ、白衣姿この男は、局長の
堂島
「相変わらずつれないなァー堂島さんは!いいじゃん一個くらい!減るモンじゃないし。」
「減るんだよ!経費と、司令の『体力』がさァ!これ以上司令に無理させたら、あの人過労で死ぬぞ!!」
テレポートボム。
希少且つあまりに汎用性の高い
『テレポーター』としての能力を持つ一茶子の力を、あくまでも緊急用に有効利用できないか、と発案されたアイテムである。
任意の場所にテレポートできる、画期的で非常に強力なモノだ。
ただし、一つ製作するのに結構な金額と、一茶子が力を込める必要性があるせいで、結構な量の彼女の体力が持って行かれることが難点であった。
そのため、主に危険度の高い(現在は『フェーズ5以上』と定められている)怪人出現時の緊急脱出用に使われることが多い、のだが…
「いーじゃァァァァん!!元教え子たちの再教育に必要なんだよォォォォ!!ちょーだいよォォォォ!!」
「黙らっしゃい!!そういのは自分の力だけでやるべきだよ!!第一、キミ本気出しゃあの子らより断然速いだろうに!!」
…どれだけ不毛で一方的な知恵の主張が続いただろうか。
気が付けば、かなりの時間が過ぎていた。
「ほらァ!堂島さんがケチなせいで、もうこんな時間!これじゃ私がいくら飛ばしても、間に合うワケないじゃん!
どうすんのさァァ早くちょーだいってばァァ!!」
大人気も無く、高校生のような駄々をこねる知恵。そんなワガママに長時間付き合わせた聖司は、ワナワナと震え、そしてため息をつきながら、ついに折れた。
「相変わらず無茶苦茶だなキミは…。
分かったよ!じゃ、これあげる!
『プロト・テレポートボム』!
はい、使い方は同じ!
で、テレポートはできるけど!
開発初期段階のモノだから!
座標がズレる可能性があります!
はい、終わり!」
怒りと呆れを混ぜ合わせ、聖司は小型の球体を知恵に手渡す。これこそテレポートボム(プロトタイプ)だ。
「えぇ…?プロトタイプぅ?何でぇ?!
正規品ちょーだいよォォ…!」
その知恵の言葉を聞いて、聖司は目の下のクマが強調されるほど、上から見下すような姿勢で鬼の形相を繰り出した。
今にも本気でメガネを割りにかかってくるほどの凄みだ。
「わ、わかったよぉ…コレで我慢するって…。」
「俺だ俺だ俺だァァァァァァ!!
その『解除』、いただきだァァァァァァァァ!!」
ビルの谷間を飛び移り、日本刀片手に目にも止まらぬ速さで駆け抜けて行く、忍者風ヒーロースーツのサイレントデイライト。
「うるさいンだってデイライト!
そんでもって今日こそはウチだし!」
魔法少女風の可愛らしいヒーロースーツに身を包み、水平にしたホウキ型の武器を、まるでスケボーのように乗って空を駆ける、ラズベリーリップル。
「フハハハハハハハハハ!!せいぜい頑張りたまえよ諸君!!このディバインゴライアスの邪魔をしないようにね!」
カブトムシのように変形したヒーロースーツで、羽音を高らかに響かせながら空を行くディバインゴライアス。
「なんなら下水道に落っことしちゃうもんねー。そしたら私がもーらい。」
身体に纏った大量の水を自らの進行方向に流し、まるでイルカが地上を泳ぐかのように華麗に進む、アクアパール。
4人は、ただ一体の怪人目掛けて突き進む。
一方その頃。
「クク…俺もついに『力』を手に入れた…。この左眼に宿った獣、
『暗黒の獅子』によって…!この腐りきった世界を…!浄化してやる!」
黒衣とライオンの様な姿、そして大層な黒い鎌と『解除』される宿命を背負った怪人が、ビル街を闊歩していた。『暗黒の獅子』が進んだ道の後ろには、スッパリと断たれた家屋の残骸たちが横たわっていた。
「目標いたいたァァァァァァァァ!!
もらったァァァァァァァァァァァ!!」
「させないよ!
『リップル・ティンクルスタァァ!』」
「フハハハハハハハハ!!諸君、無駄な努力はよしたまえよ!ハァァァァァァァァ!!」
「水さえ使えて、その中なら…私がイチバン強いもん!ね!!」
思い思いの方法で、競い合い全力で怪人に突撃する4人。
が、次の瞬間!!
天より一筋の光が!
ビル街のド真ん中!
アスファルトの上に!
ガァァァァァァァァァァン!!という凄まじい轟音と共に舞い降りたのだ!!
爆風と土煙が巻き起こり、怪人を含めた一同は軽く吹き飛び、すぐさま体勢を立て直した。
視界が、悪い。
「何だ何だァァァァァァ?!
何が起こりやがったァァァァァァ?!」
土煙の中に、機械的なシルエットが浮かび始める。
「え?!ウソ?!アレって、まさか?!」
徐々に土煙が晴れて行く。
「おおぉ!神々しくも雄々しい、まるで戦車を纏ったような、その姿!間違いないよ!」
そこに立っていたのは。
「教か…おっとと。ピースオルタナティヴだぁー。」
顔を鼻より上のみ隠したスタイルの、
ヒーロースーツのさらに上に、戦車の様な砲塔やバルカン砲にミサイルポッド、様々な遠距離用兵装をパワフルに纏った
知恵、もといコードネーム
ピースオルタナティヴが、腕を組んで立っていた。
「…お前らァァァァァァ!!
なぁにやっとるかァァァァァァ!!」
時はほんの数分前。
知恵は早速プロト・テレポートボムを、心の準備もせず、軽い気持ちで使用したのだ。
だが。
「座標がズレるって…
縦軸になのぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ?!」
バチが当たった。
聖司の言う通り、テレポート座標がズれ、知恵は目標、つまり怪人のいるポイントの遥か上空直上に放り出されたのだ。
そして泣きながらスカイダイビングを楽しんでいる最中、何とか変身が承認され、強がって腕組みで着地し、現在に至る。
ちなみにピースオルタナティヴの
『異能』は、『全身兵装』である。
「手を取り、励まし合い!助け合い!
皆が慈愛の心を持つことで選択できる!
それが『
それを…それをお前らは!
自分たちの『力』を誇示するような真似ばかり…
なっとらん!!まるでなっとらァァァァァァァァん!!」
吹き飛ばされ横たわる暗黒の獅子を横目に、腕組みのまま説教を続けるピースオルタナティヴ。
あまりの光景に、元教え子たちは瓦礫の山の中で呆然としていた。
「きょ、教か…いやいや、ピースオルタナティヴ殿…どうされたのです…?
我々は、何も争ってなど…。」
「言い訳無用!!客観的に見たらな、
争ってるようにしか見えないんだよ!
今のお前らの後ろに、何が見える?!
瓦礫の山だ…!『人々の財産』が!
断たれているのが見えないのか!!」
オルタナティヴの叱責に、4人は我に返ったように、自分たちの背後に顔を向ける。
断ち切られたビルの群れ。
崩れた家屋。
街の人たちの営みの足跡が、無惨にも壊されているのだ。
「最初から4人で連携を取っていれば…もっと被害を抑えられたハズなんだ!
今から『
啖呵を切るオルタナティヴの圧に屈し、4人はその場に無言で立ち尽くし、動けない。
そんな中、教官は肩に備わる砲塔を『ジャキン』と前方に構え、脚部に展開したキャタピラをフル稼働させ、一気に発進。デイライトの制止を耳にも入れず、超スピードで道路を疾走して行き、横たわる怪人目掛けて突撃する。
「な、なん、だ?何が起こ…ッブワァァァァァァァァァァ!!」
砲塔の先端を暗黒の獅子にぶつけ、拘束したまま速度を維持する。
「血気盛んな
『若さ』もいいさ!そんなの、若さの
『特権』だからな!!」
そして暗黒の獅子をぶら下げたまま、オルタナティヴは地を強く蹴り、ビルが無くなった開けた天に、まるでジェット機のような速さで高く舞い上がった。
「うっそ…あの武装の多さで…飛べたんだ…オルちゃん…。」
仮面の下で、リップルは口をあんぐりと開けていた。
「そんで、アンタも多分『若い』んだろライオンちゃん?!
私ゃお前らのその『若さ』を、愛してやる!!
だがな!!いくら若くても!!
人に迷惑かけたり!!
無駄な争いを広げるのは!!
『人』として!愚かすぎるんだよォォォォォォォォォォォォ!!」
成層圏ギリギリでのフルオープンアタック。からの、大爆発。炎と黒雲が、青空いっぱいに広がった。
オルタナティヴの空中攻撃は、地上への被害を抑えるためであった。
もっとも、登場時の着地の際に既に相当な被害が出ているワケだが。
「ほれリップル!ゴライアスは私!」
「…あっ、そっか!はぁい!」
「喜んで!受け止めましょうぞォォ!」
そう言って、『解除』されヒョロヒョロになった元暗黒の獅子を地上に放り投げるオルタナティヴ。
そしてそれを、リップルがホウキ型武器の先端に引っ掛け、受け止めた。
オルタナティヴ自身は、また着地で街を粉砕するワケにもいかないため、パワー型のゴライアスにお姫様キャッチされるかたちとなった。
「教か…ピースオルタナティヴ殿。
少なくとも僕は、目が覚めた思いですよ…。これからは、改めて誠実に!
オルタナティヴを腕に抱えて、熱く滾らせながら心を吐露するゴライアス。
下部のみ露わになったヘルメットの、その口元を緩ませて、知恵は言う。
「わかりゃーいいのさ!お前らは…私の自慢の教え子たちなんだからな!
お前らもぉー!よぉーく覚えとくんだよぉー!」
着地したリップル、そしてデイライトとアクアパールに向かって、軽やかに手を振る知恵。それに応えるように、全力で大きく手を振る面々。
全員の仮面の下には、眩しい笑顔、そして決意を新たにした輝く瞳が広がっているのだった。
こうしてより強く師との絆を深めた4人は、以降結束力を増し、無敵のチームに成長したのは言うまでもない。
そしてその日、街を無駄にぶっ壊した知恵は、榊原司令にめちゃくちゃ怒られ、泣きながら帰宅した。
LARGE NUMBER SQUAD エルマー・ボストン @nexuseven770
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