第6話

「そうだ、おじちゃん、知ってる?」


「何をだい」


「楽しいことは、強いんだよ」


 ぼくは仔猫たちの言っていることが、わかりませんでした。


「おじちゃん、おとなの癖に、なんにも知らないんだ」

「知らないんなら、教えてあげる。怖いことより、楽しいことの方が強いんだよ」

「やあだ、全然わかんないみたいだよ、このおじちゃん」


 仔猫たちは、物分かりの悪いおじちゃんに嚙んで含めるように言いました。


「あのね。怖いことを思い出したらね、そのままにしといちゃダメなの」

「ほっておくと、怖いことがどんどんのさばって、どうしようもなくなるからね」

「そういうときは、楽しいことを見付けるの。いっぱいじゃなくて、ひとつだっていいよ」

「お花が、きれいに咲いたとか」

「面白い形の雲を見付けたとか」

「だれかに親切にするのもいいよ」

「うん、いじわるすると、怖いことが付け上がるからね」

「そう。怒っても、付け上がるよ」

「あと、可愛いものも強いよ。可愛い仔猫ちゃん、最強!」

「可愛いほたるちゃん、最強! キャハ」

「可愛いラデちゃん、最強! キャハ」


「ぼくの店で、美味しいものを食べるとか」


 仔猫たちは、ぼくの背中をパシンパシンと叩きました。


「なんだ、おじちゃん、わかってるじゃん」

「お人形さんも、おじちゃんのお店で美味しいもの食べて、楽しいこと思い出して良かった」

「うん、良かった」


 船着き場から、入港の鐘が風に乗って聞こえてきます。


「お船、見に行こうか」

「うん、見に行こう」

「じゃあね、おじちゃん」


「ああ、また、遊びにおいで。それと」


「なあに、おじちゃん」


「そのおじちゃんは、やめてくれないかな。店長って呼んでくれると、嬉しいんだけどな」


「わかった、おじちゃん!」


 ふたりの仔猫は笑いながら、船着場に駆けて行きました。




 ***




 金花糖きんかとうは、南蛮菓子の有平糖あるへいとうがルーツともいわれています。江戸時代後期に、縁起物の飾り菓子として広まりました。

 木製の合わせ型に煮溶かした砂糖を流し入れ、中が空洞になるように冷やし固めて木型から外し、手作業で一つ一つ色をつけていきます。 

 明治になると女性のお祝いごとに多く用いられるようになり、昭和のころには駄菓子屋さんのくじ引きでも見られるようになりました。

 しかし、砂糖だけでできた金花糖は、他の多種多様なお菓子に慣れた今の子どもたちには飽き足らず、人気も薄れ次第に姿を消していきます。さらには、熟練の技術を必要とし時間と手間がかかる上にもろく壊れやすく、今では金沢や長崎、そして東京などの一部の地域でしか作られない幻のお菓子となってしまいました。


※金花糖については「金花糖専門店 江戸菓子まんねん堂」様のホームページを参考にさせていただきました。

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きんかとう 水玉猫 @mizutamaneko

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