第5話
「ごちそうさま、おじちゃん」
「どういたしまして」
「美味しかった」
「うん、美味しかった」
「おじちゃん、あのね、このお人形さん、地上に生まれるの、とっても怖がっていたから、あたしたち、怖くないよって教えてあげたの」
「地上って怖いこともたくさんあるけど、楽しいことも、いっぱいあるんだよ。だから、このお店に行って、楽しいことを思い出せばいいよって、教えてあげたの」
ああ、やっぱり。
あのお客様が言っていた仔猫たちとは、このふたりだったのです。でも、この子たちは、これまで一度も店に来たことはありません。
「きみたち、どうして、この店のこと知っているの? 今日、初めてだよね」
「だって、いつも前を通って、船着き場に遊びに行くもの。ねぇ、ほたるちゃん」
「そうだよ。招き猫のおにいさんだって、このお店、美味しいよって教えてくれたよ」
仔猫たちの意外な返答に、ぼくは驚きました。
「招き猫のおにいさんて、店に金花糖の招き猫を置いて行った人間のことかい?」
「うん」
「あたしたちのこと、可愛い仔猫ちゃんって撫でてくれたよね」
「それで、人間のおにいさんは、他にはなんて言ってたんだい」
「教えてあげなーい」
仔猫たちはクスクス笑っています。ぼくは質問を変えました。
「おぜんざいのことは、このお人形さんから聞いたのかい」
「そう。お人形さんが、おぜんざいでお祝いしてねって、あたしたちに頼んだの」
「ダメだよ、ラデちゃん。ないしょだよ。おじちゃんに言っちゃダメだよ」
「ぼくにはないしょだって、お人形さんが言ったのかい」
仔猫たちはキャッキャと笑いだしました。
「お人形さんは、そんなこと言わなーい。あたしたちが言ってるの」
「まったく、仔猫ときたら箸にも棒にもかからない」
舌打ちをしたぼくに、仔猫たちは透かさず言い返してきました。
「おじちゃんだって、猫だよ」
「仔猫じゃなくて、おじちゃん猫だけどね」
「ああ。そうだよ」この子たちにかかっては、形無しもいいところです。開き直るしかありません。「お祝いはすんだんだから、お人形はおじちゃんが片付けるよ」
仔猫たちは、すぐにハイハイ人形を奪い取りました。
「お人形さんは、あたしたちが棚に持っていくの、ねっ、ラデちゃん」
「うん、ふたりが仲良しになるように、おまじないするの。ねっ、ほたるちゃん」
仔猫たちは棚の所に行くと、人形と招き猫をキスさせました。
「仲良しになぁれ」
「招き猫のおにいさんとお人形さんは、仲良しになぁれ」
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