第7話 黒歴史から生まれた誤解
「なぁ、愛香。話があるんだが……」
屋上へとたどり着いた俺は、愛香にそう声をかける。
晴天の下、涼やかな微風が肌を撫でるように吹く。
いつもなら先客でいっぱいのはずなのだが、今日に限っては違う。屋上には誰一人として姿がなく、閑散とした空気が流れていた。その状況がさらに不穏な雰囲気を掻き立てていく。
愛香は振り返るや否や俺の真剣な眼差しを見て、それまで幸せそうだった表情が一瞬にして固まる。
怖い。めちゃくちゃ怖い。
だが、いつまで経っても逃げる続けるわけにはいかない。ちゃんと愛香と向き合って話し合えばきっと俺の気持ちをわかってくれるはず……そう信じて、俺は一度深い息を吐く。
「率直に言うんだが、もうヤンデレ化はやめてくれないか?」
「はい?」
愛香は小首を傾げて見せる。
「愛香が俺のことを好きということはわかっている。だけど、その……愛情が重いというか、俺としては愛香のことはまだ妹でしか見れないんだ」
すると、愛香はヤンデレ化するわけでもなく、短いため息を吐く。
「知ってる。だから、“お兄ちゃんが好きなヤンデレを演じているんじゃないですか”」
「……は?」
今なんて言った? 演じている?
「私、知ってるんですよ? ノートパソコンの中にヤンデレもののエロ〜いフォルダーがあるってこと。その中にエロ漫画とかいっぱい抱え込んでますよね? 中学校の時から」
「え……え?!」
その時、俺の中のすべてが繋がった。中学の時にいきなり愛香がヤンデレ化してしまったのも全部元を辿れば、PC内のお宝……すなわち俺のせい?!
「お兄ちゃん中学に入ってからやたらとノートパソコンを弄る機会が増えましたよね? それで何をしてるんだろうって思って、興味本位で一度こっそり覗いたことがあったんです。そしたらお兄ちゃん、自分のおち――」
「ちょ、ちょっと待てええええええええええ! それ以上は何も言うな!」
危うく全部言わせてしまうところだった。
あれほどまでに恐れていた感情はいつの間にか、消えつつあり、今はその代わりに羞恥心が全身を支配している。
顔がめちゃくちゃ熱い……。というか、俺の自家発電をまさか中学の時点で見られていたとは……お兄ちゃんもう一生お婿さんにいけないっ!
「と、ともかく、として、だな……ヤンデレのことは一旦忘れろ。それと、あれは二次元の創作物として魅力があるだけでな、現実では魅力も何も感じないから。わかったか?」
ただの話し合いのはずなのに、俺の体力はギリギリまで減っていた。ポ◯モン風に例えるなら、HPが残り一というところだ。まったく先程の爆弾発言は効果抜群すぎたぜ……。俺の特性ががんじょうだったからよかったものの、次喰らったらたぶん瀕死を超えて、即死だと思う。
「え、じゃあ私がこれまで演じてたのって無駄だったの? お兄ちゃんの理想の彼女になろうと思って、結構ヤンデレについて調べて研究してたのに……」
愛香はどこか文句を言いたそうな表情で項垂れる。
――項垂れたいのはこっちの方だよ……。
妹に自家発電を見られていたなんて、どんな黒歴史だ。下手すれば厨二病より身悶えしたくなるよな?
「お兄ちゃん」
「……ん?」
「大好き」
その何気ない愛情表現にちょっとばかし救われたような気がする。
愛香は俺の手を引っ張ると「早くお弁当食べよ?」と言って、ベンチの方まで引っ張られていく。
とりあえずはヤンデレの件については解決? したのだと思うけど、愛香のブラコンに関しては今後とも一生治らないような気がする。ヤンデレとは違って、愛香のブラコンは生まれ持って備わっていたみたいなものだからな。ブラコンな妹を持つ兄としては大変だとは思うが、頼られて好かれていることに対しては別に悪い気はしない。全国の兄妹事情で見るならば、仲がいいに越したことはないだろう。これからも愛香とはそのような関係が続いていくのかなと思うと、げんなりする面もありつつ、微笑ましさすら感じた。
今以上の関係については……まだ不明確としておこう。恋人へ発展するかしないかで言えば、どちらともYESであり、NOでもあるから――。
【あとがき】
お読みいただきありがとうございました!
中途半端な終わり方になってしまったのかなとは思いますが、とりあえずは完結できてよかったかなと思っています。こちらの作品はたぶん既視感がある方もおられたのかなとは思いますが、一度短編の方で出したものをまた改稿、再編集した上で投稿していました。
なので、またいつかこちらの方を再度改稿、再編集して投稿できたらなと思っております!
それにしても幼なじみの美紀ちゃん……出番がなかった。
白石くんの妹ちゃんはお兄ちゃんのことが好きすぎるあまりヤンデレ化するそうです 黒猫(ながしょー) @nagashou717
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