海辺の街ポルディアの章 序
次に向かう先に海辺の街ポルディアを言い出したのは、シズカだった。
次の目的地を決める話し合いで強く主張したのだ。
何でも海で捕れるポーションの材料が少なくなったからというのが理由だった。
薬草や薬やポーションの材料の管理はシズカが全て行っている。
だから、「シズカがそう言うならばそうなんだろう」とサラトガは言ってすぐに賛成した。
実際、私も本で勉強していたので、ポルディアが不足しているその材料の捕獲量が多いので有名なのは知っている。
ミルファとリーナは「別に目的もないし、いいんじゃない」程度の意見を言い、唯一反対していたのは、ノーラだ。
「絶対に嫌だ」
そう言ったのである。
理由を聞くが、理由は言わずただひたすらに反対を言うノーラに、私は言う。
「理由を言ってくれないとどうしょうもないじゃない」
その言葉に、ノーラはぐっと言い澱んだ。
だけど、ただ嫌だというだけでは子供と同じだし、肩を持つ事は出来ない。
だから言ったのである。
そして、観念したのかノーラがぼそっと言う。
ぼそぼそといった為、よく聞こえなかった。
だから、よく聞こえないんだけどというとふーと息を吐き出してノーラは言った。
「私は泳げないんだっ。だから行きたくない」と。
その予想外の理由に、皆、きょとんとした後、笑ってしまっていた。
ノーラは、真っ赤にして言う。
「だから言いたくなかったんだ」
普段のどちらかと言うとマッチョな剛毅なノーラとは思えないほどかわいくて、そのギャップが全員のツボだったらしい。
どうやら、昔、鎧を着たまま海に落ちたらしい。
まぁ、金属鎧をあれだけ着こんでいるんだ。
浮かばないよねぇ。
で、浮かばないという事は……。
つまりそう言う事である。
その結果、死にかけたらしい。
結局、鎧をすべて破棄してなんとか助かったらしいのだが、それ以来、海には近づかないようにしているとのこと。
まぁ、トラウマみたいな感じになっているのかもね。
だから、私は笑いを何とか抑えて子供に言い聞かせるように優しく言う。
「ノーラ、私が泳ぎを教えてあげる。私、泳ぎ得意だから」
なんせ、小学生の時は、河童と言われるほどであった。
まぁ、なんで言われていたのかは、泳ぎがうまかったのとよく泳いでいる足を引っ張って悪戯していたからなんだけどね。
まぁ、大体、河童という単語が通用しないと思ったので言わなかったが。
ともかく、私がそう言うと、ノーラは少し涙目で素直に頷いている。
なんか途轍もなくかわいいじゃないか。
普段のノーラとのギャップの差にリーナがますますお腹を抱えて笑っている。
いや、少しかわいそうじゃない、そこまで笑うと。
でも、リーナも変わったなと思う。
最初の印象は、不愛想で感情を表に出さないイメージだったんだけど、今じゃよく笑って楽し気な表情を当たり前にするようになっている。
つまり、それだけ皆に心を開いているんだろう。
ともかくだ。
ノーラを説得し、行き先は、海辺の街ポルディアに決まった。
だが、私だけが知っている。
シズカがポルディアを強く推した本当の理由を。
それは、まだカンロの街で事件は大体解決したものの、ラバハット・リンべラーゼンがまだ見つかっておらず、館で警戒に当たっていた頃にさかのぼる。
まだ油断できない為、私達は日夜交代で館の警戒をしており、私は夜番の為に夜食を用意していたのだが、その日は和食が食べたくなってみそ汁と焼きおにぎりを用意したのだ。
久方ぶりに味わう焼きおにぎりとみそ汁の組み合わせに私は大満足だったのだが、私と夜番に入っていたシズカはそれを見て驚愕の表情を浮かべた後、それを一気に平らげて私の迫ってきたのだ。
「もしかしてっ、味噌以外にも持ってるのっ?」
そう言いつつ、首元を握られて激しく振られる。
がくん、がくんっ。
首が揺らされる。
「ち、ちょっと、ま、まってーーーっ」
慌てて私は言いつつシズカの手を引きはがす。
そして、荒い息で言う。
「味噌以外って?」
「だから、それ以外の調味料よっ。ねぇ、あれって焼きおにぎりよねっ。つまり、醤油も持ってるんでしょ?」
味噌で焼きおにぎりもいいのだが、やはり醤油を使った王道の焼きおにぎりを食べたかったので作ったのだ。
その剣幕に圧されつつ、私は答える。
「え、ええ……。持ってるけど……」
「そうならそうと言ってよね。ふふふっ……」
なんかシズカが怖い笑みを浮かべている。
そしてぼそりと呟いた。
「ふふふっ。刺身に、魚の煮つけとかいけるわね。後は……」
そう。
ポルディアをシズカが強く推した本当の理由。
それは、醤油を使った魚料理を食べたかったからなのである。
ああ、さすがは食欲魔人二号だ。
私はそう思いつつ、心の中で確定した。
シズカはほぼ間違いなく日本人だと。
鬼姫異世界放浪記 アシッド・レイン(酸性雨) @asidrain
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