第22話 女商人、樺燕 其弐

 衣装や装飾の細かい確認を終えた頃には、空が茜色に染まり始める時刻になっていた。

 これ以上話に付き合わせるのも申し訳ないと思いながらも、私は荷物をまとめる彼女を呼び止める。

 

 「――申し訳ありません。商談とは全く関係ないことなのですが、一つお尋ねしても?」

 

 「何なりと」

 

 「𣳾商会は、他の商会からすれば、どのような存在なのでしょうか」

 

 そう問えば、樺燕は嫌な顔ひとつせずに口を開いた。

 

 「そうですね。庶民向けかつ、他と比べれば歴史の浅い商会ではありますが、独自の輸入経路を開拓し、利益を順調に上げているという点において、尊敬しています。ただ、あまり他の商会とは取引を行っていないようなので、内情はあまり知られていないようです」

 

 ――それは、貴女方は知っているということなのでしょうか、ね。

 

 そんなことを考えながらも、それを口に出すことはしない。

 この情報だけでも十分な成果だ。

 

 「ありがとうございます。では、また後日」

 

 「こちらこそありがとうございます。今後ともどうぞご贔屓に」

 

 美しい礼を見せて颯爽と踵を返す樺燕を見送りながら、私は“今日の収穫”を頭の中で整理していた――

 

 

 *****

 

 

 一方その頃宮殿では、飛龍、楝月、左丞相、右丞相、礼部尚書、戸部尚書、そして柳龍たちが会議を行っていた。

 無論、周辺国――特に藠鉦と惺躘について――の情報共有のためのものだ。

 

 最初に、柳龍が口を開く。

 

 「これより、会議を始める。各々持ち寄った情報を公開してほしい」

  

 楝月が真っ先に手を挙げ、皆に資料を配った。

 

 「今お配りしたものは、兵部にある書庫から抜き出した、他国の軍事力についての資料の一部を写したものです。ご覧の通り、藠鉦の武器の輸入量・輸出量は共に、年々徐々に上がっております。また、その相手が惺躘であることも確認済みです。これは、礼部の書庫の資料とも併せて確認したため、確実性のあるものと言えるでしょう」

 

 楝月の言葉に、礼部尚書が軽く頷く。

 そして彼もまた立ち上がり、別の資料を皆へ回す。

 

 「こちらは、藠鉦と惺躘との交易の頻度を示した図になります。微々たるものではありますが、やはり上がっていますね。非公式のものを合わせると、更に増えるかと。また、商人の行き来も活発になっているようです。我が国の商会の一つも、この二国間を頻繁に行き来しているようですね。𣳾商会という庶民向けの商会ですが、最近異国の商品をよく取り扱っており、成長しているとのことですよ」

 

 (――どうもきな臭い内容が多いが、どれも決定的なものに欠ける。)

 

 そんなことを考えながら、飛龍は資料に目を通す。

 すると、礼部尚書の発言が終わったところで、戸部尚書が挙手した。

 

 柳龍が発言の許可を出せば、彼は不適な笑みを浮かべて言葉を紡ぐ。

 

 「恐れ入りますが、私に言わせると藠鉦と惺躘が結託している可能性があるなど、考えすぎのように見受けられます」

 

 その瞬間、部屋が凍りついた。

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文武両道の花は後宮に舞う~何の因縁か、後宮に放り込まれました~ 風音紫杏 @siberiannhasuki-

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