37.僕として
僕は男子制服に身を包む。サイズもちょうど良い。鏡の前でもう一度自分の姿を見る。男の服を着ている自分の姿を見るのは、本当に久しぶりで、というよりも初めてかな。自分の服を買ってもらったことはなかったから、紗夜お姉ちゃんにもらっていた気がする。
改めて自分の男姿を見ると違和感を感じてしまう。
僕は違和感に苦笑いをしながらも、部屋を出る。
「…樹」
おばあちゃんが声をかけてくる。僕は振り返って、いつも通りに答える。
「おばあちゃん、変なところある?」
「…変なところなんてないよ。いつも通り、かっこいいと思うよ」
「…そっか、ありがとう。行ってくるね」
かっこいいなんて、言われたことは一度もない。まあ、それはおばあちゃんもわかっていることだろう。けれど、僕としての姿を見せれたことは嬉しく思うかな。僕は引き取られてすぐに、紗夜になろうとしていたから。それでも、最初からおばあちゃんたちは否定してこなかったな。ずっと僕のことを見守ってくれていたんだろう。
「じゃあ、行ってきます」
おばあちゃんたちにも助けられていたことにも、気づいていなかっただなんて、どこまで盲目だったんだろう。これからはみんなに恩を返せるように頑張ろう。
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Side:おばあちゃん(櫻井八千代)
樹が私たちが押し付けた男子の制服を着ている姿をして家から出ていくのを見守る。あの子が堂々と男の姿でいることができていることがとても嬉しい。
「見つけてもらったのか」
「はい。あの女の子たち、冬花ちゃんと、さやかちゃんが」
「そうか」
樹自身を見てくれる人がいた。その事実だけがとても嬉しく思う。そして、彼女たちは受け入れ、樹自身も自分を受け入れようと、努力している。
「樹が一人で紗夜の墓参りをしたいと言い出した時には、少し焦りすぎだと思っていたのですが…」
「それも、樹にとっては前に進む一歩であり、ケジメだったのだろう」
自分のせいで姉が亡くなってしまった。自分のせいで、姉の人生が台無しになった。自分がいなければ、姉はもっと幸せになれたのに…
言い出してはキリがないほどに、樹にとって紗夜は重みになっていたのではないかと思う。それは紗夜がなくなってからは特に顕著になり、あの子自身を傷つけた。紗夜に成り代わろうとするほどに。
「あの子の心の傷が癒えるということはないのかもしれません。それでも笑顔で前に進めていく姿を見ることができて…」
声にならない。本当に心の底から、彼女たちに感謝を…、私たちではできなかったことを、してくれた彼女たちに…
「いい、友人ができたのだな」
「…はい、そうですね」
私たちは男子生徒の制服を着た樹の姿が見えなくなるまで見送り続け、樹と一緒にいてくれる彼女たちに感謝した。
私が僕であるために 白キツネ @sirokitune-kurokitune
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