第3話 イロイロお世話してくれる委員長

 校舎に入っても、篠崎ママの猛攻はまだ続いた。

 下駄箱に行けば上履きを出してくれて、履いていた靴をしまってくれる。大丈夫? 臭くない?

 つーか俺、赤子? 赤子なの? ママって呼べばおけ?


 そして教室に歩き出そうとするとママ……じゃなくて篠崎は再び俺の体を支えるように立ち、教室に向かって並んで歩き出した。

 その途中では、今日はどんな授業があるだとか、俺ん家の住所は担任から聞いたとか、姉貴の事を綺麗だとか、息付く暇なく俺に向かって話しかけてくる。

 この時点で、高校に入ってから昨日までの間で篠崎と話したトータル文字数を超えた。


 ちなみにさっきの胸チラは初回ボーナスとのこと。俺がずっと学校に来てなかったのを来たから、それに見合うご褒美を篠崎なりに頑張って考えて、更にPCで検索した結果がアレらしい。

 てっきり痴女かと思って心配したけど、どうやらそんなことはなかったようだ。


 まぁ、何をどう検索したらご褒美胸チラが出てきたのかは気になるけど、俺的にはいいモノ見れたから良し。

 その事を顔を真っ赤にして、照れてながら言ってる姿も可愛かったしな。



『あ、あ、あれは一回だけだからね? もう見せないよ? そ、そんなに胸元見てももうダメだからぁ〜! ブッブーだよブブー! 仁村くんが頑張ったから、検索して一番最初に出てきたのをやってみただけなんだからね?』



 な? 可愛いだろ? ブブーなんて園児の頃に巨乳の先生にしか言われた事ないわ。何度あの胸に飛び込んだ事か……ってそれはどうでもいい。名前も忘れたし。


 そしてその篠崎は今、俺と会話をしながら周囲をキョロキョロ見て警戒している。

 俺のSPか何かなのだろうか? ハリウッドスターってこんな気分?

 俺がイジメられてるって勘違いしてるのは知ってるけど、ちょっとやりすぎじゃないか?


 けどまぁ、さすがに教室の中でまでは違うだろ。篠崎は篠崎で友達いるだろうし。

 俺も久しぶりに会う友達に話したいことあるしな。

 あ、そうなればイジメなんて無かったってわかっちゃうのか。なんてこった……ご褒美は今日で終わりじゃねぇか。


 って思ったんだけどなぁ……。



「お〜い仁村! お前やっと学校来たんかい! 待ってたぜぇ〜」



 後ろから声をかけてきたのは、いつも遅刻ギリギリの友人A。BからHまで集まっても合体はしないけど。にしても相変わらず今日もギリギリだったのか。

 俺は久しぶりに会うそいつに声をかけようとすると、俺とそいつの間に篠崎が立ちふさがる。

 まるで俺を守るかのように。



「え、委員長? なんで俺の事睨んでんの? しかもなんで仁村と一緒にいんの? え? どゆこと?」

芦屋あしやくん、今、仁村くんのことを待ってたって言ったよね? なんで?」

「いや、いきなりなんでって言われても……」

「答えれないんだ。そうだよね……あんなことにしたんだもん。仁村くん行こ。大丈夫。何もさせないから」



 篠崎はそう言うと、友人A……芦屋にむかって両手を上げてガルルゥ! とでも言いそうなポーズをとった後、俺の腕を引いて歩き出す。

 なにその可愛いの。アライグマの威嚇にしか見えないんだけど。


 俺は篠崎に腕を引かれながらもチラッと後ろを振り向くと、芦屋はキョトンとして首を傾げている。多分篠崎の言った【あんなこと】に心当たりが無いんだろう。大丈夫だ。俺もない。

 まぁ、芦屋は俺の前の席だから後でこっそり教えてやろう。



 久しぶりに教室に入ると、クラスメイトの視線が俺に向かう。『お! 来たな』って顔をしたかと思うと、今度は揃いも揃って『なぜ?』って顔になる。おいおい、その顔は昨日篠崎が俺の部屋に現れた時にした顔だ。

 だよな? そうなるよな? わかる。

 だけど説明は後ほど。今は早く座って休みたい。



「篠崎ありがとな。もう自分の席だから支えなくても大丈夫だ」

「ん〜ん、どういたしまして。なにかあったらすぐに言ってね?」

「おっけーおっけー。なにかあったらな」

「うん」


 俺は椅子に座ると背負っていた鞄を下ろして机の横にかける。

 篠崎も同じように椅子に座ると肩から鞄をかける。そしてふぅ……と小さく息を吐くと、鞄から筆記用具とかを出して机の中に入れていく。

 俺の隣で。


 ………………ん?



「あれ? 篠崎の席は一番前じゃなかったか?」

「え?」



 俺の記憶が確かなら、隣の席は篠崎に好意を抱いてる爽やかモテモテイケメンの前田くんのハズ。席替えでもしたのかと思って教室内を見渡すけど、他は俺の記憶のとおりだ。


 あれっ? と思って以前の篠崎の席を見ると、そこには涙を流す前田くんの姿。



「え? じゃなくて。なんで篠崎がその席に? そこ、前田じゃなかったか?」

「そうだよ? だけど仁村くんを守る為に交換してもらったの」

「こ、交換?」

「うん。今日は私いつもより早く学校に来て、先生に許可をとってから前田くんにその事を伝えて席を交換したの。それから校門の所で篠崎くんを待ってたんだ」

「……まじか」



 前田くん……。想い人に話しかけられてさぞかし期待しただろうに。どんまい。

 まぁほら、その席なら【前田の席は前だー】とか言えるから良かった……な?



「だからこれからは隣でよろしくね? 仁村くん」

「お、おう? よろしく?」



 微笑みながらそう言ってくる、前田くんの気持ちなんてカケラも気付いていない篠崎の顔は可愛かった。

 だけど……あれ? なんだろう。なぜか嫌な予感がするんだけど。


 気の所為だよな? なんか無性に【空回り】で検索したページを篠崎に見せたくなったのは。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る