第9話 バブみってなぁに?

 こ、この体勢でのご褒美だと!?

 それはつまり……アハンアハンな事をされちゃうのか!?

 いやまさかそんな! さすがにそれはありえないだろう。下に垂れた髪を耳にかけているから、せいぜいほっぺにちゅうくらいだろう。

 ってそれもありえないがな!? 両片思いの幼馴染とか恋人でもあるまいし。

 もしそういう事をしてきそうなら断固止めるわ。多分。おそらく。きっと。



「仁村くん……」



 あ、篠崎の手が俺の顔に伸びてきて──そのまま肩を掴まれた。 ん?



「えいっ!」

「おわっ!」



 仰向けだった俺はうつ伏せにされた。



「足が動かないと上半身だけで色々な事を済まそうとしちゃうでしょ? だからマッサージしてあげるね?」



 篠崎はそう言うと俺の背中や肩を揉みほぐしていく。あ〜気持ちいい〜。

 だけどそれよりも気になるのが、マッサージする為に篠崎が動く度に俺の腰に伝わる尻の感触。形を変えてふにょんふにょんと動く。

 これはいかん。イケナイ気分になってくる。

 このままずっとこの感触を……ってそんな事してる場合かよ! すっかり堪能してたけど、遅刻しちまうわ!



「し、篠崎! 時間時間! 嬉しいけど遅刻するっての!」

「……はっ! そうだったね! すっかりやるのに夢中になっちゃった!」



 おぉぉぉい! そのセリフ誰かが聞いたら誤解しちゃうから!

 って突っ込む暇もない! 早く着替えないと。

 俺はベットから降りてクローゼットを開けて制服を出す。

 そして篠崎が俺の前に来て、シャツの裾を掴む。



「はいバンザーイ」

「バンザーイ! ってやるかぁ! 部屋から出てっ!」



 何故か俺を着替えさせようとする篠崎を部屋の外に追い出して急いで制服に着替え、鞄とスマホを持って廊下に出た。

 下に降りるとリビングでは、コーヒーを飲みながら朝のニュースを見ている芽依さん。



「あ、かずちゃん起きた?」

「起きた? じゃないでしょうが! なんで篠崎を部屋に入れちゃったの!?」

「だって呼んでも起きないんだもーん。そしたらちょうどつぐみちゃんがかずちゃんの迎えに来たからお願いしちゃった♪ ホントはわたしが潜り込んで起こしても良かったんだけど、それは酔ってないと無理かな〜? って」

「酔っててもやめろい。って待て。ホントはわたしがって……もしかして見てたのか?」



 俺の質問に対して芽依さんの答えは、すげぇいい顔でのサムズアップだった。



「見てたんなら止めんかい!」

「いやぁ〜てっきり学校サボって情事に溺れるのかと思って? 祈織いのりちゃんの本でもそういうのあったし? まぁ、祈織ちゃんの本だとどっちも男なんだけど」

「んなわけあるか!」



 ちなみに祈織ってのは俺の姉貴の名前だ。

 くそっ! 芽依さんが止めてくれていたらこんな時間ギリギリにならなかったのに!

 って俺が最初の目覚ましでちゃんと起きてれば良かったのか。



「あ、そんなに焦らなくてもいいわよ? 今日はわたしが車で送っていくから」

「んぁ!?」



 急いでお茶漬けを口の中に流し込んでいると芽依さんがそんな事を言ってくる。そういうことは早く言ってくれ……。

 そして篠崎。びっくりして止まっただけで別に喉に詰まったわけじゃないんだから、背中をポンポン叩かなくていいぞ。



「なんていうか……つぐみちゃんってバブみが凄いわね」

「バブみ……ですか? 仁村くん、バブみってなぁに?」

「芽依さん……あんたな……」

「へ? あれ? 通じてない!? ……あ、そうだったわね……。普段から使ってるせいで日常語だと思っていたわ……」



 んなわけねぇだろうが……。アンタと姉貴はそういう本読みすぎてそれが日常になってるからだ。はぁ……説明どうすんだよ。



「え? ねぇねぇ仁村くん! バブみってそんなに普段から使われてるの? 私聞いたことない! どういう意味なの?」

「お、おぉ? なんだろうなー? 俺にもさっぱりだなー? ほら、芽依さんは大人だから難しい言葉沢山知ってるんだうなー?」

「そっかぁ。芽依さん、バブみってなんですか?」

「ひぃ! あ、えっと……あ! ほら! 遅刻するわよ! 私、車のエンジンかけて待ってるわね!」

「むぅ……。後で検索してみよっと」



 芽依さん逃げたな? 篠崎が検索した先に何があっても、俺は知らないフリして芽依さんに投げるからな?



 ◇◇◇



 準備を済ませて芽依さんの車に乗り込む。

 助手席は芽依さんの鞄などが置いてある為、俺と篠崎は後部座席で二人並んで座ることに。

 そして学校に向かう車内で芽依さんが突然こんな事を篠崎に聞いた。



「ねぇつぐみちゃん。つぐみちゃんのお母さんって何してる人なの?」

「母ですか? 母は保育園で保母をやっています」

「あーやっぱり? もしかして名前って佳奈美かなみさん?」

「あ、はい。そうですけど……。お知り合いなんですか?」



 ん? やっぱりってなんだ?



「知り合いっていうか……ほらかずちゃん、覚えてない? かずちゃんが年長のころの先生。かなセンセーって言ってたじゃない」

「!? まじか!?」



 かなセンセーって俺の初恋の人じゃねぇか!

 え? マジで篠崎がかなセンセーの娘!? あのバインバインの!?



「いやぁ〜、この辺で篠崎って名字少ないし、何となく似てたからもしかして〜? って思ったけど、ドンピシャだったわね♪ 今はお母さんどうしてるの?」

「わかりません。母は母をやめました」



 …………え?

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