第2話 登校再開。最初のチラ見せご褒美

 翌日、俺は靴を履いて玄関に立つ。背中には鞄。左手には松葉杖。腰元に構えて「マシンガーン!」とはやらない。もう既に一回やって、それを姉貴に見られて大爆笑されたから二度としない。



「よし、行くか! 登校ボーナスというご褒美の為に!」



 俺は期待に胸を膨らませながら玄関から足を……あ、いや、松葉杖を踏み出した。

 松葉杖を踏み出すってなんだよ…。



 ◇◇◇



 俺は久しぶりに歩く通学路を進みながら昨日のことを思い出す。


 あの後、何故かスカートを持ち上げたまま、ふとももをチラチラ見せてくる委員長に、必ず学校に行くことを約束するとスカートを下ろして、赤くなった顔が落ち着くと口を開いた。



「は、恥ずかしいけど頑張って良かった……。あっ! でも足を怪我してるんだよね? 大丈夫? 朝、迎えに来ようか? 一人で歩ける? 辛くて一人で教室入れないよね? 一緒に入ろっか?」

「いや、大丈夫だって。そこまでしてもらわなくても」



 俺はご褒美さえ貰えればそれでいいんだからな。



「そう……わかったわ。(強がってるんだよね? きっとそう。イジメられて平気なわけないもの。きっと私のことを気にしてくれてるのね。こんな優しい人がイジメられるなんて……。明日からのご褒美頑張らないと!)」



 いやいや。なんか小声でボソボソ言ってるけど聞こえてるからね? 俺、難聴じゃないから。むしろ耳は良い方だから。ピーって音がなった瞬間にボタン押すから。鳴ってないのに押して怒られたこともあるから。

 つーかさ? 俺、なんか委員長の中で聖人君子になってるんだけど。

 ちょっと心痛いんだけど。

 それでもご褒美は貰うけども。頑張るってなんだろ? ワクワク。



「じゃあ、私はそろそろ帰るね?」

「そうだな。そろそろ外も暗くなるし」



 俺はゆっくりと階段を降りると、玄関まで行って篠崎を見送った。

 篠崎は俺の足を気遣って、部屋にいていいよって言ってくれたけど、なにか間違いがあって姉貴が描いてるBでLな同人原稿を見せる訳にはいかない。



「今日はわざわざありがとな。委員長」

「ううん全然。明日、待ってるね? あ、それと……委員長じゃなくて、名前で呼んでくれると嬉しいかな? 委員長って言うのはあくまでクラスの役職だから」

「あーじゃあ、篠崎。これでいいか?」

「うん。別に名前でも良かったけど、それでいいよ。じゃあまたね。仁村くん」

「おう」



 篠崎が外に出て扉が閉まると、俺はカギを閉めて階段の方に振り返ると、そこにはリビングから顔を出してこっちを見ている姉貴の姿。



「可愛い子だったねぇ〜。彼女?」

「んなわけないだろ。俺のクラスの委員長だよ。連絡事のついでに見舞いに来てくれただけだ」

「そうなの? 連絡くらいならスマホで済むんじゃない〜?」

「済まねぇよ。だって連絡先知らねぇもん」

「あ、なるほど。完全に同情で来た感じなんだぁ〜」

「ほっとけ!」



 俺はそれだけ言うと自分の部屋に戻った。

 そりゃ同情だろうな。だけどそれでも構わん。元々好意を持ってた相手じゃないし。

 まぁこの先どうなるかは知らんけども。


 そんな事を考えながら飯を食べ、風呂に入って体を念入りに洗い、ぐっすりと眠りについたのだ。


 夢に喋るふとももが出てきて一度起きたけど。



 ◇◇◇



 それにしても……早く家を出て正解だったな。松葉杖使って歩くってのは思ったよりも時間がかかる。それに疲れる。

 思いっきり体力落ちてんなこりゃ。元に戻るまでどんくらいかかるんだか……。

 けど学校まであと少しだ。早く教室に行って座りたい。

 あと少し。あと少し──


 そしてやっと校門の所にたどり着いた時だ。時計を見ると予鈴ギリギリ。あぶなく遅刻する所だった。



「仁村くん!」

「……篠崎」


 どうやら俺が来るのを待ってたみたいだな。いったいなにが彼女をそうさせるのかわからないけど、特に俺にマイナスな事はないからいいか。


「大丈夫? なんか凄く辛そうだけど」

「あぁ……まぁ、ちょっとな」



 一ヶ月前は余裕だった通学路が足の怪我でこんなに長く感じるとは思わなかった。

 まじ疲れた。寝たい。よし、一限目は寝る。これは決定事項だ。もし怒られたら、「ふぐぅ〜痛いんですぅ〜」とでも言って保健室に行こう。そうしよう。



「わ、私が無理に学校に来るように言ったから……」

「は? いや、そういう訳じゃ……」



 ただ単に歩き疲れただけなんだが? その事を言おうとすると、篠崎は俺の体の右側に並び、体を密着させて腰に手を回してきた。

 なんか脇腹が柔らかい。

 しかもいい匂いが……ってこれ、姉貴のシャンプーと一緒だな。



「大丈夫。私がついてるから。もう誰にも仁村くんをイジメさせないから。でも……ほんとに頑張って学校来てくれたんだね。偉いね」



 そう言いながら今度は頭を撫でてくる。

 いやいやいや! 俺は子供か!? だけどなんだこの安心感は。まさかこれがバブみってやつか!?

 ──じゃなくって! さすがにやめてくれ。周りの視線が気になってしょうがないっての! 周りの視線がぁぁぁ……って周りに人いなかったや。


 ったく、なんでこんなことするんだ……あ、そうか。篠崎は俺がイジメられるのが嫌で辛い顔をしてるとでも思ってるのか? 全然違うのに。

 ってことはこれがご褒美なのか? う〜ん、なんか違うような気もするけど、まぁいいか。

 とりあえず頭を撫でて貰うのはもう辞めてもらおう。

 俺がこんな事を考えてる間もずっとワシャワシャされてるし。放っておくと鳥の巣みたいになりそうだし。



「篠崎? もういいから。大丈夫だから」

「ホントに? もう大丈夫? 辛くなったらすぐに言ってね? あ、そうだ。ご褒美なんだけど、えっと……これで明日もまた学校に来てくれる……かな?」

「え?」


 さっきのがご褒美じゃなかったのか?

 じゃあご褒美ってなんだ? そう思いながら隣を見ると、篠崎は空いてる手でブラウスの胸元辺りのボタンを一つだけ外して、俺だけに見えるように少しだけ拡げて見せてきた。

 そこから見えるのは、白いブラと白い肌。そして谷間。そこまで大きい訳じゃないが、しっかりと主張をしている胸の谷間。



「んなっ!?」

「お、おしまいっ! ……ちゃんと見えた?」



 俺の視線がそこに向いたのを確認したのか、篠崎は胸元をすぐに手で隠してボタンを締める。



「げ、元気……でた? こ、これが今日のご褒美だよ?」



 余計歩きづらくなったっての……。

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