第1話 突然の訪問者。そしてふともも

 俺が学校に行かなくなって今日で一ヶ月。

 いやなに、別に不登校とかそんなんじゃあない。ただ単に学校の帰り、美幼女を助けるために自転車に吹き飛ばされて骨折しただけだ。それはもうキレイに右足をポッキリとな。


 だけど後悔はしていない。痛かったけど学校休めるし、きっと将来俺が助けた美幼女が将来、「あの時の女の子は私なんです……好きっ!」とかって言いながら現れるかもしれないからな。

 もしくは美人で若いお母さん(未亡人)がお礼に来て「今夜……ご飯食べに来ませんか?」って頬を赤くしながら言ってくれるかもしれない。

 それか可愛いお姉さんが、「あなたが私の妹を助けてくれたの? ふ〜ん……勇気、あるんだ♪」とか言って惚れてくれるかもしれない。

 つまり俺のラブ可能性は無限大ってわけだ。

 ふっふっふ……。


 って、んなわけあるかボケェ。現実みろや俺ぇぇぇ!

 この一ヶ月何もねぇ! 誰もお見舞いにすら来ねぇ! いや、一応来たには来たな。

 お礼にお菓子持ってきた美幼女の母親は、The母親! って感じだった。

 一回だけ担任とクラスの友達が来たけど、俺には一言二言「うわははははっ! 大丈夫か? あはははははっ!」って話すだけで、あとは俺の姉貴としか会話してねぇじゃねぇか! 下心丸出しなんだよ!


 確かに弟の俺から見ても姉貴は可愛い方だとは思うけど、ただの腐女子だからな!? お前らの事なんかカップリング対象としか見てねぇからな!? 肩とか組んでるの見てハァハァしてるんだからな!? 姉貴の名誉の為に言わないけどもっ!


 はぁ……。それにしても暇な一ヶ月だった。

 有り余る時間で育成が進んだおかげの、ソシャゲのランキングと、運動不足による体脂肪率だけが上がった一ヶ月。

 だけどこの暇な時間も今日で終わり。やっと足が動かせるようになったからな。明日からは学校に復帰出来る。まぁ、松葉杖ありきでだけど。

 絶対笑われてからかわれるんだろうけど、それでも家に缶詰めよりはマシだ。


 そんな事を考えながら明日の準備をしていると、誰かが階段を登る足音。多分姉貴だな。今日は大学サボって同人描くとか言ってたし。


「か〜ずちゃん、お客様だょ〜。しかも可愛い女の子!」

「なん……だと!? 俺を騙してるのか?」

「そんな訳ないじゃ〜ん。女の子が来たって何も面白くないもん。美形の男の子が来てくれたら妄想捗るけど」



 おい。体をくねらせるな。弟をそういう対象で見るな。



「そんな妄想はやめろ」

「やめない。私の生きがいを奪うことは何人たりとも許さない。てなわけで、今お部屋に通すからねぇ〜」

「は? ちょっ! 俺まだいいなんて言ってねぇぞ!? おいっ!」



 姉貴はそう言って俺の部屋を出ると、階段を降りていった。俺の制止の声も聞かずに。

 くそっ! この足じゃ急いで片付ける事も出来ねぇじゃねぇか! 黙ってリビングに通してくれればいいものを……ってダメか。多分姉貴がリビングで同人のネーム描いてんだろうな。自分の部屋が汚いから。

 ったく……。足が治ったらまたあの魔の巣窟を片付けろって言われるのが目に見えるようだ。

 つーか、来たの誰なんだ? 名前も聞いてねえぞ?


 その時──



「連れてきたわよ〜。じゃあごゆっくり〜」

「あ、お、お邪魔します……」



 姉貴の声と一緒に俺の部屋に飛び込んで来た可愛らしい声。

 その声の持ち主は……



「へ? 委員長?」



 俺のクラスの委員長である、篠崎しのざきつぐみ。肩口で切りそろえられた、ふんわりとしたミディアムボブに大きな瞳。

 綺麗よりは可愛いと言える、美少女と呼んでもいいくらいの子だ。実際、俺の友達でも委員長の事が気になってる奴もいるしな。

 しかし、なんでその委員長が俺ん家に? そこがわからない。しかも制服姿だから、きっと学校の帰りに寄ったんだろう。なぜ?

 ほとんど話したことないんだけどな。



「えっと……突然来ちゃってごめんね?」


 姉貴が再び下に降りると、委員長は俺の部屋に一歩足を踏み出し、後ろ手にドアを締めながら申し訳なさそうに言った。


「別にそれはいいんだけど。なんで委員長が?」

「ごめんね? 私、委員長なのに何も出来なくて……」

「はい? なにが?」

「まさか本当にそんな怪我をいたなんて……」

「いやこれは……」

「やっぱり原因はイジメ……だよね?」

「……………………なんて?」



 待て待て待て待て。この委員長は何を言ってるんだ? あれ? 学校にちゃんと連絡したよな? 自転車にはねられて骨折ったって。それがなんでイジメになってんだ?



「本当はね? なんとなく気付いてたの」

「何に!?」

「仁村くんがクラスの男子に暴行されてるのを見たことあったから……」

「暴行」



 な、なんだそれ!? まったく身に覚えがないんだが!? 暴行ってなんぞ!? ちょっと肩をどついてどつき返したりくらいはあるけども!



「それにね? 仁村くんが学校に来なくなる前の日に見たの」

「な、なにを?」

「仁村くんの机の上に置かれていた花を……。あんなのひどいよね!」



 いや、その花置いたの俺のなんだけど。友達と一緒に見たロボットアニメの中に、花の名前のロボットがあったから、それを見せてやろうと花屋でバイトしてる姉貴に頼んで持ってきたゼフィランサスとデンドロビウムなんだけど。なにも酷くないんだけど。



「そんなことされたら学校に来るの嫌になるよね……」

「いやそれは──」

「でもっ! 私がもうそんなことさせないから!」



 いや、話を聞いてくれ。委員長の脳内でどんなストーリーが流れてるんだ!?

 なに? 俺が学校に行ってない理由がイジメってことになってるのか!? んな馬鹿な。

 これはちゃんと弁解しとかないと色々マズイな。俺のクラスの立ち位置的にも!


「ちょっと委員長聞いてくれ。それはだな──」

「だから勇気を出して学校に行こ? 辛いかもしれないけど、私が一緒にいてあげるから。それに……」



 だから話を聞けっちゅーに。

 あまりにも俺の話を聞かないで一人で盛り上がってるから、口でも塞いでハッキリ言ってやろうかと思ったその時だ。



「頑張って学校に来てくれたら……毎日、ご褒美あげるよ?」



 委員長はそんな事を言いながら制服のスカートを両手でつまんでまくり上げ、白くてムチッとしたふとももを俺に見せて来た。その奥はギリギリ見えない。

 視線を上にズラすとその顔は真っ赤に染まっている。



「が、頑張ったらもっと見せちゃう……かも?」

「俺、頑張る!」



 もちろん即答である。

 言い訳? 弁解? そんなもん知るか。

 俺はご褒美貰うんだ!

 え? 元々明日から行くつもりだったろだって? はっはっは。そんなこと教える訳ないだろ? 言ったらご褒美貰えないじゃないか。


 さて、どんなご褒美を貰えるんだろうか……うへへ。


 って考えていた俺は馬鹿だった。

 まさか、学校に行った瞬間からあんなことになるとは思ってなかったんだ……。


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