第6話 僅かな違和感。自己肯定感の欠如。

 望んでない微笑みに見守られながら過ごす、登校再開の初日も無事(?)に放課後をむかえ、俺は家に向かってゆっくりと歩く。

 ……篠崎に支えられながら。

 いや、断ったぞ? ちゃんと断ったんだ。だけど「心配だから」の一点張りで押し切られた。というか、俺がすぐに折れた。もう言い返す体力も精神力も残ってなかったからな。


 ちなみに帰りも靴の用意をされた。朝と違って結構な人が周りにいるにも関わらずにもだ。


 これはさすがに侮蔑の視線を送られるかと思って内心ヒヤヒヤしていたのに、俺の耳に入ってくる言葉は、『なんて健気……尊い』『まるで長年連れ添った夫婦……素敵』といった肯定的な声ばかり。

 どんだけだよ。篠崎、お前はどれだけの徳を積んできたんだ……。


 あと気になるのが俺との距離感。支えてもらいながら歩いてるって言ったけど、朝みたいにピッタリくっついている訳では無い。松葉杖を持っていると、そっちの方が歩きづらいからな。だから篠崎は俺と触れるか触れないかくらいの距離。


 だけど、俺が少し歩き疲れて立ち止まった途端、その距離はゼロになる。全身を使って俺を支えてくるからだ。はっきり言って危うい。


 警戒心が無いのか、それとも自身の体に無頓着なのかはわからないけど、もう少し考えた方がいいと思う。

 なぜなら……その度に俺の腕やら脇腹に篠崎の胸が当たる当たる。


 いやね? 役得だなぁ〜とは思うんだけどね? もしこんな事を他の奴にやってるとしたら心配の方が勝つというかなんというか……。



「仁村くん? 大丈夫?」



 篠崎はそう言うと、俺にピタッとくっつきながら顔を覗き込んでくる。


 あ、考え事しているうちに足が止まってたのか。

 それにしてもまたそんなくっついて……。これは一度ハッキリ言ってみるか。



「あ〜……篠崎あのな? 支えてくれるのは助かるんだけど、さっきから胸当たってるぞ?」

「え? あ、気にしなくても大丈夫だよ? この状態だと仕方がないもん。それに私の胸、そんな大きい訳でもないし。こんなのが当たってもなんとも思わないでしょ?」



 いや、そう言う問題じゃないんだが?

 それに大きくはないけど、それなりに柔らかいからなんとも思わないなんて事はないんだけど!?


 それにしてもなんだ? なんか変だ。朝の胸チラは恥ずかしがっていたのに、胸が当たることに照れてる様子がない? なんでだ? 気のせいか?



「ほら、そうだとしてもだな? 篠崎は可愛いんだし、もし色んな人にもそういう事したら変な勘違いする奴もいるかもしれないだろ? だからやめた方がいいんじゃね? 恥ずかしいだろ?」

「可愛い……って?」

「……へ?」

「あ、私の事? もうっ! 仁村くんは何言ってるの? 私が可愛いとかあるわけないでしょ? 私なんての存在なんだから」



 待て! 待て待て待て。今なんて言った?

 普通なら絶対耳に入れない様なこと言わなかったか!?



「それに何も恥ずかしくないよ? ただ胸が当たっただけだし?」

「あ、当たっただけって……。じゃあ昨日や朝のは!? 朝は恥ずかしがってたよな!?」

「ん? あれは恥ずかしかったよ? だってホントならスカートに隠れてる部分と、隠して身に付けてるハズの下着を見せたんだもん。だけど男の子のご褒美にはソレが良いってあったから頑張ったんだ。こんな私のだけど、ご褒美になったのなら良かった♪」



 おい待て。

 篠崎……お前それ本気で言ってるのか? これ、危ういってレベルじゃねぇぞ!?

 篠崎には何かが欠けてる。その何かはまだわからないけど、多分大事な物が。



「なぁ篠崎……」

「あ、もうそろそろ仁村くんの家だね。今日の朝もこのくらい時間かかったの? やっぱり明日迎え来ようか?」

「いや、そうじゃなくてだな……」



 何となく、ホントに何となくこのまま帰るのがマズイような気がして言葉を続けようとしたその時、俺の家から出てくる人物。姉貴では無い女性。


 その人は俺を見つけるとパァッと顔を笑顔にすると、小走りで駆け寄ってくる。


 あ、ヤバい。ヤバいヤバい! だけどこの足じゃ逃げれねぇ! あ、あ、あ……近付いてきたぁぁぁ!!



「かずちゃぁぁぁぁんっ! 結婚しよう! おかえりっ! 足大丈夫? 心配だから結婚しよ?」

「誰がするかぁぁぁっ!!!」

「大丈夫! お金ならあるから! ガッポガッポだから! かずちゃんはなにもしなくていいから子供の元だけ──ぐぇっ!」

「言わせねぇよ!?」

「に、仁村くん? この人は? え? 仁村くん結婚するの?」

「しねぇよ!?」



 ほらぁ! 篠崎が困惑の表情浮かべてんじゃねぇか! ホントにこの人は……



 俺に求婚してきたこの女性。名前は仁村 芽依めい。今年で二十八歳で独身。性癖はショタ。

 そして、海外で働く両親の代わりに俺と姉貴の面倒を見てくれている人で、父さんの妹。

 俺が小さい頃から妙に可愛がってくれていて、俺達の面倒を見る時に言った一言がこれだ。



【兄さんも義姉さんも任せて! あ、でも、もしかずちゃんが私の事好きになっても責めないで! こういう風に甥っ子を預かってつい無防備な姿を見せちゃってドキドキしちゃってなんやかんやあって結ばれてもしょうがないよねっ! ねっ!】



 って、すごい笑顔で言ったのを俺は忘れない。

 あの日の鳥肌を俺は忘れない。


 ほんと怖かったんだ……。





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