第4話 夏が慮る
夏が慮る
夏がおもんぱかる
私たちは夏をおもんぱかる
口のない嘘の中には思いやり
あなたの嘘は思いめぐらして考え抜かれている。慮る。だから簡単には口にしないのね。
かげろうをおもんぱかる。かげろうの話を聞いた。1日の命。次の命のためだけに使う。みんなで一斉に羽を広げる。ふやふやでゆらゆらでたくさん。
死んでしまう。儚い命というけれど、成虫になるまでの幼虫時代が長いようだ。ちょっとした気象情報になるほど、霧のように前が見えなくなる。白い蜉蝣。食も眠りも捨てて、弱いことで生き残ってきた。
セミをおもんぱかる。セミの話も聞いた。1週間の命。みんなで一斉に鳴く。ミンミンジージーカナカナツクツクシャンシャンたくさん。
死んでしまう。儚い命というけれど土の中時代が長いようだ。ちょっとした騒音被害になるほど、大合唱する。黒い蝉。うるさいと言ったり、風流だと言ったりする。
七夕は七が「たなば」タはカタカナなんだ
陽炎はヨウエン
五月蝿いの蝿はセミのことだよ
などと嘘を教えたとなりの家のお兄ちゃんは、なんでも信じる私を笑っていた。
「引っ越すんだ」
「どうせまた嘘でしょ」
「ほんとだよ信じろよ」
「嘘つきだもん」
「くそ、ひっかからなかったか」
「やっぱり!」
お兄ちゃんとはそれきり。でも楽しく遊んでいつものようにまたねって。お別れ会もなし。嘘だと思った自分も嘘だと言ったお兄ちゃんもひどい。陽炎や蝉時雨で時々思い出す。
夏が慮るのは私たち
夏が燻る 新吉 @bottiti
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