トゥ・レジスト
築谷 周
第1話 幻の修学旅行
「ホントだったら俺ら今頃ディスニーだったはずなのにさぁ。ラーメンとディスニーとだと天と地の差だよ」
そう言いつつも、ラーメン行こうぜと言い出したのは
俺たちの修学旅行は二度の延期を経て結局中止になった。感染拡大が止まらないから仕方ないのはわかっているけど、やっぱり残念だ。
「修学旅行の日にテスト入れるとか鬼畜にも程があるよな」
「でも今日で期末終わったし、午前授業さえ乗り切ればすぐ夏休みじゃん」
「甘いな
そうだった。俺たち受験生なんだよ。時の流れは早いもので、気づいたら高三になっていた。
「なんか全然高校生活満喫した気がしねぇんだけどー。お前ら三人は運動部だからまだ思い出とかあるかもしんねーけどさ。俺なんかほぼ帰宅部みたいなもんだからな」
そう言う
「運動部も運動部だよ?バスケはデカい大会何個か消えたもん。ま、先輩らに比べたら俺らの代はマシだけどな……」
「サッカーも同じ同じ。それに学校行事とかもほぼ潰れたもんな。青春してないなー」
何が潰れたっけと陸が数える。一年の後期球技大会、二年の文化祭と前期球技大会、修学旅行、三年の文化祭。
二年の体育祭はやったけど午前のみの開催で、イマイチ盛り上がりに欠けた。
「それと先輩が言ってたんだけど、例年なら二年の初めにBBQ、三年の初めにバス旅行もあったらしい」
陸の発言にセッキーが付け加える。
「え、俺それ知らねー初耳」
BBQは自粛期間だったし、バス旅行は修学旅行延期でなあなあになって流れたんだとか。俺も初耳だ。
「こうなるって知ってたら、一年のときもっと高校生活楽しんどけばよかったって思うわ。一年なんてFPSやってたら終わってたもん」
一年生の年明けまではまだコロナなんて単語知らなかったもんな。
「楽しむって?」
「彼女とか。俺高校入ったら彼女できるもんだと思ってたのにさー。行事ないと女子と関わる機会まじでなくね?」
「それは歩クンが奥手なせいじゃないんですか?」
セッキーがニヤニヤしながらそう言った。
「え?何?彼女いるマウント?そういうのいいってマジでー」
「まぁ理系選んだ時点でしょうがないみたいなところはあるけどね」
俺も陸に同意。クラスには女子が十人ちょいしかいないし、部活のマネと付き合うなんてのは漫画の中の話だ。
「でもその中からセッキーはさぁ。マジで何なんコイツ。腹立ってきたわ」
歩がひじでセッキーをこづく。
「お待たせしましたー」
セッキーの彼女の話になりそうなところでラーメンが運ばれてきた。伸びると不味いから話もそこそこに急いで食べる。やっぱここのラーメンは美味いんだよな。
「あ、クラスLIME動いてる。明日のHRで体育祭の団長・副団長、ダンスリーダーを決めるから考えてきて、だってさ」
一足先に食べ終えた陸がマスクをつけ、スマホをいじっている。
「え、ペアダンやんの?ソーシャルディスタンスはどうしたよ」
歩が麺を持ち上げたまま聞く。俺らの学校では体育祭で三年がペアダンスをするのが伝統になっている。去年は感染症対策でやらなかったけど。
「ペアダンじゃなくて普通にダンスパフォーマンス?らしいよ。てか誰が団長やるんだろうね?」
「キムチとかやりそうじゃね?」
目立つのが好きなキムチくらいしかやりそうな人が思い浮かばない。賑やかなやつは多いけど、自らリーダーになって盛り上げるタイプは俺たちのクラスには少ない。
「体育委員は団長兼任できないんだって」
「そうなん?じゃあやる人いなくね?」
「歩、立候補してみれば?青春できるかもよ?」
セッキーがわざわざ青春の部分を強調して言った。
「それとこれとは話がちげーだろー」
「そんなんだから歩クンは彼女ができないんだぞ。副団長の女の子と仲良くなれるかもしんねーのに」
「関係ねーし!?それに颯汰と陸だって彼女いねぇだろ。お前ら笑ってるけど状況同じだかんな」
歩がムキになって言い返す。まぁ団長なんてそんな下心だけで務まる役職ではない。
「つーかセッキー早く食っちまえよ。伸びるぞ」
「もう伸びてるだろ」
「これくらいがうめーんだよ」
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