第2話 ダンスリーダー
クーラーの効いた教室に蝉の鳴き声が響き渡る。
授業は終わり、HRで夏休み明けの体育祭の話をしている。感染症対策で競技がほとんどリレー種目になることや、ペアダンスがなくなることをキムチが喋っている。
「というわけで、昨日連絡した通り団長・副団長、ダンスリーダーを決めます。ダンスリーダーは男女二人ずつな。誰かやりたい人いますか?」
誰も手を挙げない。予想通りだ。リーダーシップのあるやつはこのクラスには少ないし、夏休みに仕事が増えるのはゴメンだとみんな思っているんだろう。
ぐっさんやれば?とか戸田っち行っとこーとか言う声があがる。
ぐっさんは責任重すぎるから自分にはムリだと言い、戸田っちに関しては他のやつにお前はやめとけと言われていた。立候補でもないのに戸田っち、かわいそうすぎる。
「じゃあ広瀬は?」
「えー、誰もいないんだったらやってもいいけど」
「はいじゃー決まりな!」
早く決めてしまいたいキムチがそう言い、同じく体育委員の植山さんが黒板に名前を書く。
「えーマジで誰もいねぇ?」
「往生際悪いぞ広瀬」
その後、副団長と女子のダンスリーダー二人は流れで決まっていった。しかし男子のダンスリーダーが決まらない。男子三十人近くもいんのになんでこっちが決まらねぇんだよ。かく言う俺もやりたくはない。ダンスとかやったことないし。
結局くじ引きで決めることになった。キムチが引いた出席番号のヤツがダンスリーダーになるらしい。
教室はガヤガヤし始め、全員がキムチの手元に注目する。
「一人目は……」
「ちょっと待ってキムチ、まだ心の準備ができてないねんけど」
戸田っちが待ったをかける。こいつはこっちに来てもう二年以上経つはずなのに、まだ関西弁が抜けていない。
「心の準備とかいらねーだろ
ここまで黙って眺めていた、担任のタカティーこと高瀬先生が口を挟んだ。
あだ名や名前で生徒を呼んだりする、この定年近いおっさんは何故か人気がある。面倒くさがりだからなのか、無駄なことをしないところは俺も好きだ。
「先生は当たる可能性ないからそう言えるんすよ!」
「先生は早く涼しい職員室に帰りたい」
これがタカティークオリティだ。ほかの先生なら絶対言わないようなことを平気で口にする。とはいえ、教室も十分涼しいけどな。
「よし、これにする!えーと四十番!は陸だな」
「うわーマジかい……」
「ヨッシーwドンマイw」
陸が頭を抱えている。
「続いて二人目は……」
キムチが箱の中身をかき混ぜる。まぁこれでほぼ当たらないだろ。逆に当たった方がすごいまである。
「えーっと三十……六番!誰だっけ?颯汰?」
「うっそだろ!」
俺は思わずそう叫んだ。まさかすぎる。俺って三十六番だよな。去年と同じだから確実だ。おい歩笑ってんじゃねぇ。こういうのって戸田っちが当たるのが筋だろ。
「団長広瀬くん、副団長小松さん、ダンスリーダー
植山さんがそう言い、パチパチパチと拍手が起こる。
「体育祭の役員をくじで決めたクラスとかお前らが初だぞ。これ高校生活最後の行事だがこんなんでいいのかお前ら?男ども、女子の言うこと聞いてちゃんと動けよ。足引っ張んなよ。以上!号令」
「気をつけ、礼ー、さようなら」
「さようなら」
この担任は話が長くないからいい。中学のときの面倒な担任だったら、くじ引きで決めたことに一時間くらいお説教が入るところだった。
「颯汰~~~俺マジで踊れないんだけど」
HRが終わるなり陸が俺の席にやってきた。
「俺も小学生以来だわ。踊れるかなぁ」
ハズレ二枚をここ二人で引くとかどんだけ運悪いんだって話だよな。
「いやー、陸と颯汰には悪いけど回避出来てよかったわ」
セッキーがそう言いながらこっちにやってくる。歩はその横でニヤニヤしている。俺らは当たってしまったことに絶望しているというのに。セッキーも歩も許すまじ。
「歩~俺と代わってくれん?マジで踊れないんだよ俺」
陸が歩に泣きついている。俺だって代わってもらえるなら代わってほしいよ。
「俺もダンスとかほぼやったことねぇよ」
「えー、じゃあセッキー代わってよ~。踊れるだろお前」
「僕は塾の夏期講習あるからすまんな。せいぜい自分のくじ運を恨むことだなw」
「お前らマジ覚えとけよ。当たってないからって調子乗りやがって~」
俺はそう言って二人を指さした。
「俺は別に何も言ってねぇよ」
「お前さっき爆笑してたの見てっからな!」
ちっバレてんのかよって歩が言うけど、あんだけ笑っててバレてないと思える方がすげぇよ。
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