第7話 リスク

 チャイムが鳴った。もう今日は二限で下校だ。斜め後ろに視線をやると陸と目が合った。お前も行くよな?と目で合図すると、陸が頷いた。


「戸田っちー!俺も行く」


 俺たちはそう言いながら戸田っちの後を追いかけた。ちょうど広瀬と階段を下りていくところだ。


「おー、ヨッシー!颯汰!」

「俺も行きたかったんだけどなー。今から塾の面談あんだよな。いい報告待ってる」

「任せとけ!天才ヨッシーおるから大丈夫やで」

「俺ぇ!?」


 広瀬は昇降口の方へ向かっていき、俺たちは校長室の方へ向かっていく。職員室前の廊下はまだ下校していない生徒がちらほら残っている。


「とりあえずノックしてみるか」


 コンコンコンと戸田っちが校長室のドアをノックする。中から低い返事が返ってきた。戸田っちが俺たちの方に視線をやり、ドアを開ける。


「失礼します」

「おや、どうしたのかね」

「体育祭のことで話があってきました」

「とりあえず、入って座りなさい」


 戸田っちを先頭に校長室に入る。机の周りに高級そうな椅子が並べてあり、俺たちは横並びで校長先生の対面に座った。体育祭中止を撤回して頂きたいです、と、戸田っちが切り出し、陸が続けて話す。


「僕たちは夏休みの間、勉強の合間に体育祭の準備を進めてきました。中止はあまりにも酷いです。感染者数は確かに少なくはありませんが、減少傾向にあります。室内でするわけでもないので、僕は今年の体育祭は開催できると思います」


「私は生徒みんなの命を最優先で考えています。その結果、今回の体育祭は中止にするのが固いかなと」


 それは耳にタコができるほど聞いてきた。今まで中止された行事全てですか?と俺が尋ねると、感染状況を踏まえてそういう結論になっている。と返答された。


「しかし、県の感染者が多いって言ったってそんなん都市部の話じゃないですか。蒼海町そうみちょうなんて一日に数人いるかいないかですよ」


「とはいえ、仕事や通学で近隣の市町村の流入は少なからずあるでしょう。リスクがないとはいえない」


 ここまではまぁ想定通りではあった。実際に歩なんかは割と都市部に住んでるし。


「もし予定通りの開催が厳しいのであれば、せめて延期や短縮等、別の形での開催を考えていただけないですか?」


「短縮にはほとんど意味がないだろうし、延期になると君たちの受験に影響するので厳しい」


 俺の提案は速攻で反論された。だったらなんで去年は午前だけの開催だったんだよ。


「別の話にはなりますが、他校では感染症対策を徹底した上で文化祭が行われていました。同じ公立高校で同じ時期にです。実際にそこでクラスターが起きたという事例もありません」


 陸が言った。結構文化祭やってる高校いっぱいあったんだよな。


「たまたま起きなかっただけかもしれない。命にはかえられん。わかってほしい」


「さっきから命を守るという発言ばっかですけど、ホンマに体育祭が原因でクラスターが起きると思ってますか?中ならともかく外ですよ。普段の学校生活よりも全然感染しづらくないですか?」


「盛り上がると感染対策が疎かになることも考えられるしな。とにかく、ほかの先生方と会議をしてこういう結論になりました。申し訳ないが、諦めてもらいたい」


 その後15分程なんとか校長にお願いしたがどれも反論され、長時間の対話は密だと言われ校長室を追い出された。


「クッソ~なんやねん、校長頭固すぎかよ」

「セッキーが言ってた頑固ってのは伊達じゃねぇな」

「てか陸めっちゃインテリみたいな雰囲気出すやん」

「え、出てた?」


 普段の陸は天然でなにを考えてるのかわからないけど、ここぞと言うときに発揮する真面目モードは正直怖い。


「よっしゃ作戦会議や。教室戻んぞ」

「とりあえず広瀬に報告するか」


 さっきの話を戸田っちが広瀬にLIMEすると、意外とすぐに既読がついた。面談の待ち時間らしい。


『まず近くの高校がどうなってんのか調査すんのはどうだ?他がやってるなら、その学校と同じような内容だったら行けると思うんだよな』


「じゃあ中学の同級生に連絡してみるかー」

「俺も中学のやつに連絡するかぁ」

「戸田っち兵庫じゃん」

「いやでも結構あっちも行事やってるっぽいで?SNSとか見とったら遠足で普通にコニバとか行ってるもん。言うたら向こうかって感染者多いやんなぁ。ま、塾の友達とかに聞いてみるわ」


 俺たちは中学の同級生や塾の友達などに連絡して、体育祭の有無を確認した。


「じゃあまとめると蒼海、暁丘、第一、北高、片工はやるのか。で、西高は延期ね」

「中止になったのが東高だけでもう終わったのが南高と森碧か。他はわからんな」


 ちょうど情報が集まったところで、もう面談が終わったらしい広瀬も電話で話に入っている。他校の開催要項なんかも送ってもらったりして、対策をまとめていく。


「あ、そうだ俺、中学んとき仲良かった後輩が第一で生徒会長やってるんだけど、ちょっとどんな感じでやるんか聞いてみる」

「頼むわ颯汰」

「任せとけ」


 もう昼過ぎになっていて腹減ったということで解散になった。家に帰ってから、例の後輩に聞くと詳しいことを色々教えてくれたのでそれも取り込みながら内容をまとめる。広瀬がそれをプリントアウトして明日持ってきてくれるらしい。明日課題考査あんのに俺たちなにやってんだろうな。

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トゥ・レジスト 築谷 周 @Amane_Tsukutani

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