第4話 待機
「みんなまだ学校いたんだー!?」
引き続きダンスの動画を漁っていると、広瀬と小松さんが教室に戻ってきた。補習後に団長集会があったらしく、その後残って団紹介文と応援の掛け声を考えていたんだとか。そしたらクラスLIMEが動いて、俺らが教室にいることがわかったらしい。
「仕事は終わったんだけどね。でもこの雨だから帰れなくて」
「そーそ。あ、俺ら黄団になったよ」
赤、白、黄、青、緑、紫、橙の七色を各学年を縦割りにした団に割り当てることになっている。
「なんか早いもん順だったらしくて、行ったらもう白と黄しか残ってなかった。補習長引いてたから仕方ないよね」
「どんな決め方w」
「でも高瀬先生よく黄色のシャツ着てるしちょうどいいでしょ」
黄色というか蛍光色のシャツをしょっちゅう着ている。アレ目に優しくないんだよな。黒板より服が目に入るから。
「そーだ、二人ともアンケート投票してくれた?」
「したぞーさっき」
「なんか他に案あったりしない?」
「あたしはかわいいのやりたいな~」
「候補ある?」
「これとか、これとか~」
小松さんがタブレットをいじって見せてくれる。アイドル系のゴリゴリにかわいいやつだ。女子がやるならまだ見てられないこともないけどさ。
ちらっと陸と広瀬の表情をうかがったら、案の定二人とも苦笑いをしていた。
「ちょっと俺らこれやる勇気はないかも」
広瀬が笑いながら遠回しに俺たちの意見を代弁する。
「え~かわいいのに」
「こまっちゃんうちのクラスの男女比考えなよ」
小森さんがツッコむ。
「理系であえてこういう選曲で行くからいいんじゃん~!ギャップでさ~!そうだ、みんな衣装スカートで行こうよ」
「絵面が地獄すぎるわ」
男でもかわいい系のやつがやるならまだわかるけど、あいにく俺たちのクラスはゴリラみたいなやつばっかだ。面白いとは思うけど。
「えぇ~そうかな?吉田くんはあたしの案ありだと思うよね?」
「ん~、ネタとしてはありだけど~~~。みんなに聞いた方がよくない?俺らだけで決めていいのこれ?」
「男どもー、女子の言うこと聞いてちゃんと動けよ。足引っ張んなよー」
広瀬がタカティーの物真似をする。微妙に似てるのがなんともいえないんだよな。陸と小森さんは爆笑してる。
「タカティー確かにそんなこと言ってたけどさぁw」
「でも広瀬くんさっきそれやる勇気ないって言ってなかったっけw」
「いやでも俺はタカティー信者なので、女子の皆さんが言うなら従うしスカートも着ますハイ」
ぶっちゃけ、広瀬は顔かわいい系だから似合わなくもないとは思うけど。
「ほら団長が言ってるんだからさ、いいじゃん?ね?」
「女子っていうかそれはこまっちゃんの意見でしょ~」
「えへへバレたか」
真宮さんにツッコまれて小松さんが笑う。かわいいから許されるんだよな、えへへなんて言ってもさ。
「ていうか、颯汰が出したダンスの曲決めアンケートはもう二十人も回答ついてんのに、俺がさっき出した役職アンケートのほうは全然回答つかねえんだけどー。いじめですかー?」
広瀬がダンスの衣装係とクラス旗・団旗係をそれぞれ案と製作に分けて募集しているけどまだ一人しか立候補者が出ていない。
「まだ考え中なのかもしんないよ」
「だったらいいけどさー。いなかったら俺らでやらなきゃいけないから困るんだよなぁ。みんなも暇だったら手伝いに来てな」
雷はさっきほどではないにしてもまだ鳴っているし、雨に関しては止む気配すらない。アンケートの回答が揃うのを待ちながら振り付けやフォーメーションの相談をしていると、時計の針はもう四時前をさしていた。
「うわもうこんな時間!?俺五時から塾だったわ。まだ雨降ってるけどしゃーねーよな、帰るわ」
「お前カッパあんの?」
「ないけど強行突破する。まあ小雨だし大丈夫だろ」
小雨と呼んでいいのかこれは。普通に雨降ってると思うけどな。広瀬家遠いし絶対びしょ濡れコースだろ。
「待ってあたしも今日塾だった!広瀬くんナイス、急いで帰んなきゃ。かなちゃん玲奈ち、かわいいのでお願いね♡」
「できたらね」
辛辣な小森さんに何度も念を押してから団長コンビが去っていき、教室はかなり静かになった。
「構成はだいぶ決まったけどさ、ペアの部分をどう組むかで動きがだいぶ変わってくるよね」
「希望聞かなきゃいけないよな」
「まぁ細かいところは後期補習までに決めよっか。夏休みは全体練習は一日三十分って決まってるし、前期は振り付けメインでやっていこう」
アンケートの回答が三十弱ついたところで締め切って曲を確定させる。三曲やるらしい。
さっき確認したのとだいぶ票が動いていて、別の曲でまた振り付けを探す羽目になったけど、こっちはYuuTube丸パクリで行くからそんなに時間はかからなかった。
小森さんが動画を見ただけでその場で簡単に踊るもんだから、なんでそんな上手くいくのか聞いてみたら中学生までダンス習ってたらしい。真宮さんも小学生のとき少しだけやっていたんだとか。そりゃ踊れるわ。
「雨のせいなのかおかげなのか、ここまで決められてよかったよねー」
「一応私たちダンスリーダーだし、全体練習までにだいたい踊れるようにしておこう」
「練習いつからだっけ?」
「月曜の補習からもうクラスで練習始めたいよね。土日あるしいけるっしょ」
「二日ァ!?」
「絶対ムリムリムリ」
簡単に言う女子陣に俺らは無理だと抗議する。
「いけるって、完璧じゃなくてもいいからさ」
「二人とも運動神経いいじゃん。余裕でしょ?」
「そんなことないし、それとこれとは話が違うんだって」
なんだかんだで下校時刻の五時近くまで話し合っていた。ほんの十五分ほど前に雨が止み、少しずつ青空が見えてきていた。
教室で女子とは解散して、陸と駐輪場に向かう。
「つーかど素人の俺らにできるわけなくね?二日とかさ。真宮ちゃんたちは舐めてるね俺らの踊れなさを」
陸がどれだけ踊れないのかはよく知らないけど(さっきだいぶ怪しかったけど)、二日で覚えて踊れるようになるってのは無理がある。
「マジでそれな……」
昇降口を出ると、夕日が水溜まりに反射してキラキラと光っていた。雨降ったあとの空ってやたら綺麗なんだよな。数時間前まで雷雨だったとは思えない。
「お前今日俺ん家泊まりに来ん?ダンス一緒に練習しない?ていうかしてくれ。お母さん今日いないから、ちょっとぐらい騒いでも多分なんも言われないからさ」
「おーまじ?じゃ飯食ってシャワー浴びたら適当な時間に陸ん家行くわ」
陸とは家が逆方向だから駐輪場で別れる。後でなーと手を振り、家まで自転車をかっ飛ばした。
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