おわりに
心理学の分野についていくつか紹介してきた。これまで紹介してきた心理学を二つの領域に分けてみよう。
分かりやすく、文系的、理系的、という分野に。
文系的……臨床心理学、犯罪心理学、社会心理学。
理系的……発達心理学、神経心理学、認知心理学。
ここでいう文系的、理系的、とは以下のような判断基準で分類した。
文系的……人間が生み出したものについて研究対象とする。例えば社会、言語、法律など。
理系的……自然が生み出したものについて研究対象とする。例えば生物、物理現象、化学現象など。
文系理系の分け方については教育業界を見てみると色々な尺度があるが、妙に占いっぽい分類で漠然としている。情熱的なら文系、理性的なら理系、というような。実際には情熱的に研究する理系だっているだろうし理性的に研究する文系だっているはずだ。どうも日本の教育体系は空想的でよくない。
臨床心理学は、人間について直接アプローチする学問なので文系という分類をした。人間自体自然が生み出したものなので、理系的と言えば理系的ではあるが、臨床心理学はよりコミュニケーションに重点を置いているので文系的とした。人間同士のやり取りは「人間的」だ。
犯罪心理学は法律に関連することが多いので文系的とした。もちろんこの学問も統計的アプローチをとるので、先述の「情熱的なら……」理論で分けるなら理系的なのだろうが、ここでは社会を扱うという観点から文系的とした。
社会心理学は文字通り社会について扱うので文系とした。これも実験を行うので「情熱的なら……」論に則れば理系なのだろうが、さすがにこの話ももう馬鹿馬鹿しいだろう。社会は間違いなく人間が生み出すものだし、人と人との繋がりというのは自然現象とは少し異なる動きを見せるものだろうと筆者は想像している。
発達心理学はエリクソンなどの発達段階を例にとると人間を扱っているので文系的、ともとれるが、例えば乳幼児の認知機能など、生理学的な側面もあるので理系的とした。正直この分類は少し迷った。だが臨床心理学と比較すれば、臨床心理学は人間同士のコミュニケーションを扱うのに対し発達心理学は人をどこか「動物的に」見る学問だ。つまり人間を「自然の一部として」見ている。故に理系的とした。
神経心理学は、人間に対して生物学的アプローチを試みているので理系的とした。実際医学とも通じる部分は多く、医師によってはこの分野について研究している人間もいることだろう。この分野の論文の著者名にも医師の名前が載ることがある。
認知心理学は人間を機械のように扱うので理系的とした。先程の文系理系分類によれば、機械は人間が生み出したものなので文系的とすることは可能だが、機械を動かしているのは物理現象だったり数学的な処理だったりするので理系的とも取れるだろう。
以上から分かるように、心理学は「文系と理系の狭間にある」学問だ。同じ心理学を学んでいる人間でも、文系的な人間と理系的な人間とに分かれる。筆者のように文系だけど理系分野にも興味があるような人間にはうってつけの学問だと言えるだろう。逆に理系から文系に転じる人にも向いているはずだ。
今回、ここで紹介した分野以外にも、心理学には様々なジャンルがある。知っている限り列挙してみよう。教育、物理、スポーツ、健康、人格、比較文化、産業……それぞれの最後に「心理学」がつく。物理心理学って何? と思った方は調べてみよう。認知心理学の走りとも言える学問だ。
さて、最後に。
心とは何か? 「はじめに」で「心とは、脳が身体の内外から来る刺激を符号化し後にそれを様々な形で表象する情報処理システムのことである」とした。これはいささか理系的であろう。文系的にするのならば。
「人の内側から溢れる感情、意識、認識の総称であり、形がなく、胸の内に宿るものである」となるのだろうか。
いずれにせよ、心とは。より中性的に言うのならば。
自分の状態を外部に表すものである。「表さない」という選択も沈黙を表しているので表現の一種だろう。人は表さずにはいられないのだ。それが如何なる形であれ、自分がここにいる、ということを証明せずにはいられない。
ここ、カクヨムに集まっている人間は皆、文章で己を表す人たちだろう。
だから、そういう意味では。
このカクヨムと言う膨大なシステムこそが、我々の心だったりも、するのかもしれない。
いつかカクヨムが感情を持ったら……なんていうのは、少々SFじみているか。
いよいよ本当に最後に。
ここまでお付き合いいただいた皆様に感謝を。当作品にて記載した文章は全て飯田太朗の所感によるものなので、よろしければ是非、皆様の目でそれぞれの心理学とは何か、見極めてみてほしい。
いざ、心の科学へ。
了
たのしい心理学 飯田太朗 @taroIda
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