ああそうか、目的などないんだ。だからそのために、回り道があるんだ。

あの朝からおよそ百回目に訪れた夜、そんなことにふと気づいた。


いつか始まった旅。いつか終わる旅。


同じ山で躓くことも、環状線に迷い込むこともある。それでも、旅をしていると見方が変わる。新しいことが見えてくる。

ならばそれでいい。そこで必死に何か越える手立てを探したならば、躓いても躓いてない。心に蠢き巣食う諸々の山のなかに、きっと反省と進化が隠れている。


そんなことを、365駅手前の自分が思えただろうか。きっと、365駅先の自分も列車に乗っていれば同じようなことを思うのだろう。その間にいる俺の思いはきっと、渓流のごとく流れ流れて回り道をする。


でも今はそれでいい。


どこへ乗り換えてもいい片道切符は、どこまで有効なのだろう。

いつか改札を抜けるとき、何を思うのだろう。改札が見えたとき、何を思い出すのだろう。


結局のところ、何もわからない。でも今はそれでいい。そう思わないと何も報われない。

旅を続ける理由なんて、回り道が好きなだけで充分だ。

旅を終えない理由なんて、回り道の先が知りたいだけで充分だ。

何があってもなんだかんだ列車に乗る理由なんて、いままでの回り道がもったいないからで充分だ。


今はそれでいい。


汽笛一声。今日もプラットホームを、煙を吐く俺らの汽車がゴトリと走り出す。続いて呼応するように力強く、ブラストが朝靄の郷にこだました。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 朝陽が差してくる。どこか、肩が軽い。懐かしい何かを見ていたようだが、思い出せない。


ともかく、窓を開けよう。どこか、優しげな朝だ。




          完

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鉄の路 天野ひかり @kiha40

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