冬・再開・駄菓子

俺は、君から逃げられない。


あの時、俺は君とはもう道を交えることはないと思っていた。友人として時々思い出したように連絡したり、共通の友人とともに飲みに行くことこそあれど、二人で会うなんてないと思っていた。ましてや、君をまた好きになるなんて。ありえない。

「なんか、難しい顔してない?」

君に声をかけられる。そう、二人で会うことなどないと思っていた。しかし現実はそうじゃ無かった。君は何度か俺のことを誘ってくるようになった。誰にでもこうなのだろう、と思っていたがどうやらそれも違うみたいだ。なんだっていったいこんなことをしてくるのだろう。

「何悩んでんの。そんなヘンテコな顔して。」

お前のことだ、と言えたらどれだけ楽だろうか。ずっと見ないようにしていた問題を突きつけられて平静を保っている俺を誰か褒めてくれ。

「なんでもない。大丈夫。」

と、多少ぶっきらぼうに答えると君は

「そっかそっか〜。」

と楽しそうにニコニコ笑う。くそっ。今日はかなりの量酒を飲んでいるからいつもよりゆるい。まあきっと同じペースで飲む俺もそうなんだろうけど。駄菓子をコンセプトにした居酒屋に行きたい!と言い出した君に連れてこられたが、なぜこうもいうことに逆らえないのか。普段なら大学の女やバイト先の先輩にこんな弱いとこ見せないのに。ああ、くそ。君といるといつもそうだ。俺だけが振り回されて。残りの酒を俺は一息で飲み切った。


初めのうちはよかった。相談事があったりしたならばもちろん力になりたかったし、そもそも君と遊ぶのは嫌いじゃない。何事もなく遊んでいたし、そんな感情も起きなかった。

状況が変わったのはいつからだったか。一度だけ、「帰りたくない」なんて言われたことがある。その時点で殺し文句だ。自分の理性を俺は褒めたい。それでもそんなわがままを言う人じゃないのはわかっていたので、よっぽど何かあったのだろう、と思って近場で泊まれるところを探すことにした。オールで何かするか、と考えたが「眠いからどこかベッドがあるところがいい」なんて言い出した時は本気で怒りそうになった。こいつは何も知らずにそう言うことをいう。前もそうだった。

仕方がないので近くのホテルを予約し二人で一つのベッドで寝ることになった。こっちはソファで寝る、と言っていたのにそれすら却下された。

全てを諦めた俺はもうさっさと寝ることにした。どうせ一緒に寝たことはあるんだ。1回も2回も変わらんだろう。なんて自分に言い訳をしながら。

少しすると苦しそうな声が聞こえた。慌ててそちらを見ると呼吸が乱れた様子の君がいた。

「どうした!?大丈夫か!?」

と急いで声をかけると君は抱きついてきた。俺の胸に顔を埋め、必死に呼吸をしている。そんな様子を見て、一瞬悩んだ。でも、ここで振り払えるような人間なら、初めからこんなことにはなってない。背中に手を回し、さすってやる。少しでも楽になるように。

しばらくすると呼吸が一定のリズムに変わった。覗き込むとすっかり落ち着いて眠っているようだった。安心して寝かせようとする。しかし抱きついたまま君は離れていかなかった。どうにもならず、眠気も来ていたので結局諦めてそのまま寝てしまった。

翌朝、なんにも無かったように君は「おはよう」と腕の中で笑っていた。


「美味しかったねぇ。」

ふにゃっと笑う君を見ながら夜道を歩く。少し歩いて帰らない?なんて言ってくる君の表情は読み取れない。いつも負かされっぱなしだ。かなり冷えるが酔った身体に冷たい空気が心地いい。しかしいい加減負けっぱなしは悔しい。俺は負けず嫌いなんだ。どうにか君を慌てさせてやりたい。

ふと、一つの考えが頭によぎった。かなりのギャンブルだ。成功率は低い。でも、間違いなく君を慌てさせることはできる。ならばやらない手はない。ニヤッと笑って君を呼び止める。

君の頬が真っ赤になったのは酒のせいでも、寒さのせいでもないだろう。

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超ショートストーリー 雪野蜜柑 @yuki_mikan

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