第42話:寄生虫症

「バルド殿、本当に娘を治すことがができるのか」


 シュレースレス伯爵と言う、この国の最高権力者が話しかけてくる。

 先々代国王の晩年から抜擢された、この国では立志伝中の貴族らしい。

 先代国王から当代の国王に信頼できる家臣として引き継がれたらしい。

 名門貴族出身の重臣が、平民からの陳情を家臣や配下貴族に任せているのに、直接陳情を聞いて平民からの情報を集めていると聞いた。

 家臣や配下貴族に操られる事がないようにしているのかもしれない。


「さて、それは薬を使ってみなければ分かりません。

 呪いやケガの場合は、パーフェクトリカバリーの薬であろうと効果はありません。

 呪いやケガでない事を確かめておかないと、薬が無駄になってしまいます。

 ですがご安心ください、シュレースレス伯爵閣下。

 この通り、私には手助けしてくれるシスターがいてくれます。

 とても高価な薬を使う前に、ご令嬢の診断をさせていただきたいのです」


 俺は事前に紹介してあったシスターを改めて前面に出す。

 本当は旅商人が泊る区画に残っていて欲しかったのだが、重病人がいると聞いた以上、シスターが区画に残ってくれはずもない。

 まあ、残して行くのも心配なので、同行してもらうこと自体は問題ない。

 問題がある事、昏々と言い聞かせた事は、勝手に聖女スキルを発動しない事だ。

 まあ、シスターが聖女スキルを発動しなくていいように、事前準備はしてある。


「おお、それは助かります、バルド殿、シスター。

 どうか直接娘の状態を見てやってください。

 それと、決してシスターを信じていない訳ではないのですが、事前に多くの医師から診断してもらった病名を伝えさせてもらいます」


 元々の性格なのか、それとも娘可愛さに下手に出ているのか、ここ国を牛耳っているとまで言われる権力者とは思えない態度だ。

 パスカルの集めてくれた情報では、清濁併せ吞む大きな器量を持っているという。

 だったらそれに併せた言動の方がいいだろう。


「ええ、そうしていただけると助かります」

「はい、診断する人が多ければ多いほど、治せる確率が高くなります」


「そう言っていただけると助かります。

 娘の病は、身体の中に悪い虫が入り込んでしまったモノだそうです。

 その虫が身体の中で増えてしまって、内臓が働かなくなったというのです」


 おい、おい、おい、それは病気に入れていいのか。

 恐らくだが、前世で言う所の寄生虫感染症の事だろう。

 命にかかわらないような寄生虫感染症ならいいが、結構致命的なモノも多い。

 過去日本にあった致命的なモノだと、日本住血吸虫症だったかな。

 後はアニサキス症でもアナフィラキシーショックを起こしたら死んでしまう。

 ツツガムシ病でも死ぬことがあったはずだ。


「それは大変です、急いで診断させていただきますね。

 パーフェクトリカバリーの薬では治せないような病なら、バルド殿に他の治療方法を考えてもらわないといけませんからね」


 シスターはそう口にすると直ぐに令嬢の寝室に入っていった。

 俺たちは令嬢の寝室の手前にある控えの間にいたのだ。

 中に令嬢と看護の侍女しかいない事は、さきほどシスターが確かめた。

 俺は中には入れなかったが、忍者スキルを使って他に人がいない事は確かめた。

 それでもシスター一人にするのはとても心配だから、防御魔術を展開させている。

 シスターの防御魔術を突破できる者などいないと思うが、心配だ。


「バルド殿、薬で治せない時の対応方法とは何なのだ」


「今回のように、身体に虫が湧いた場合、病と言い切れない可能性があります。

 獣や魔獣に傷つけられたのと同じだと、神が定められている可能性があるのです。

 その場合はヒールで治す方がいいと思うのですが、それだと身体の中に湧いている虫がそのまま残ってしまい、また直ぐに同じ病になってしまいます。

 そんな場合は、虫に傷つけられた内臓と、原因となる虫を同時に身体から取り出して、ヒールで内臓を再生させれば完治させられるはずなのです」


「ほう、そのような方法があるのですか、初めて知りました。

 確かにその方法なら、身体に虫が湧いても完治できるかもしれません。

 ですがその方法を使うためには、内臓を再生させる薬が必要になります。

 残念ながら、私はそのような薬があると聞いた事がないのですが、まさかとは思いますが、バルド殿はその薬を作る事ができるのですかな」


 やばい、シュレースレス伯爵の目が貴族の、それも強かな貴族の目になってる。

 ここは、そんな回復薬など作れないと言って、治療に失敗する一手なのだが、シスターが手を抜くことを許してはくれないだろうな。

 この国を支えているほどの貴族なら、そんな薬を作れる職人を他に国に返すはずがないから、絶対に拘束されてしまう。

 どうやってこの屋敷から安全に逃げ出すか考えないといけないな。

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バディという謎スキルしか神授されず魔力もなく、王女との婚約を破棄され公爵家を追放され平民に落とされ、冒険者になったら囮にされました。 克全 @dokatu

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