サクラサクねくろまんしぃ。 ~作楽柵ネクロマンシィ~

コカ

サクラサクねくろまんしぃ。 ~作楽柵ネクロマンシィ~







 オイは作楽だ。

 作る楽しみと書いて『サクラ』だ。


 おっと勘違いするなよ、これは名前じゃぁない。詳しい事はオイにもとんとわかんねぇ。ただ、ヒトの為に楽しみを作る。そういう生き物らしい。

 職業というか、生まれ持った役割だってどこぞの誰かが偉そうに言っていた。七面倒くせぇが、持って生まれたんなら仕方がねぇ。今さら母ちゃんの腹に戻すわけにもいくめぇさ、ってなわけだ。


 今日も古びた街中を歩いていると、あぁクソッたれ。仕事の臭いを嗅当てちまう。


 ぶつくさ文句をタレながら、しぶしぶ臭いを辿っていくと、そこは白木で出来た立派な門扉に鮮やかな白塗りの塀――いったいどんな悪事を働けばこんな立派なもんが建つんだろうね――どこまでも続く馬鹿デカイ御殿が、威風堂々どっかりと腰を据えていやがった。


 銭こってもんは、あるところにはあるんだなぁ。


 鼻をほじりながら辺りを見やると、一人の女が門の前で呆然と立ち尽くしていた。

 年の頃は十七くらいかな。まだ幼さの残る顔を真っ青に染め上げ、目ん玉から鼻水を出してやがる。

 どうしたんだと、女の目線を追ってみる。


 ――あぁなるほど。


 門扉には大仰な鯨幕が着せてあり、その脇を飾るあの提灯。了解了解、皆まで言うな。そういうことね、合点がいった。


 要するに、女の大切なヒトにお迎えが来ちまったってぇわけだ。


 かぁ~っ、美談だねぇ、泣かせてくれるねぇ。愛しいあのヒトが遠くへと旅立ってしまう。残された私はどうすればいいの……。とまぁ、こういうとこだろうね。


 くだらねぇ。


 オイは、どうも他人の不幸ってもんがいけ好かん。見てるだけで腹立たしくて仕方ねぇ。

 ったくよぅ、おうおうおうおう、みっともねぇな。

 オイは女の前に体を滑り込ませて、一通り罵ってみた。


「年頃の娘が人前で、涙を見せるもんじゃぁねぇ。あんまりヒヨコだと嫁入り前に恥かくぞぃ」


 女はチラリと視線を飛ばすと、目を伏せ歯を食いしばる。


「あぁ、はがゆい。通りすがりの貴方には分からないでしょうね。私のこの悔しさは」


 ギリギリと、女の口からこぼれる歯軋りの音が耳障りったらありゃしねぇ。


「……誰か逝ったのかい」


「えぇ、死なれては困るヒトが死にました」


 ボロリボロリと涙を落とし、何がそうまで悔しいのやら、女は目を吊り上げて胸元を押さえる。


「本当に、これからどう生きていけば良いのか分かりません」


 おやおや、気の早い事で。


「普通に生きてきゃいいだろう」


 まったくもって大げさな、思わず鼻で笑ってしまわぁ。


「大昔ならいざ知らず、人生八十年のこの御時世だ、出会いなんざまだまだ星の数ほどあろうや」


 珍しく励ましてはみたものの、けっ、胸糞悪ぃ。それでも女は首を横に振りやがる。


「何を今更、普通になんて生きていけましょうか。目的を失った人生に私は価値を見出せそうにありません」


 その目はどんよりと闇色に染まり、その表情はドブ川のように淀んでやがる。おいおい、このまま誰某の後を追いかけて逝っちまいそうだ。

 するってぇとほら見ろ、きやがった。この辛気臭さに当てられて、オイの肌が粟立ちやがる。

 あぁ糞、畜生、面倒くせぇが仕方んない。こうなっちまうともうどうしようもねぇ。

 オイは、恨みがましく深い深~い溜息をつく。嫌だ嫌だと頭を振って、さぁて役目を果たしますか。


「おいこらよく聞け小娘ちゃん。何があったか知んねぇが、オイが今から気まぐれを起こす」


 後は勝手に楽しくやんな……。





 ――よぉ、小娘ちゃん。あの門の前で会って以来だな。オイだ、作楽だ。作る楽しみと書いて『サクラ』だ。


 今日も今日とて街中は、相も変わらず不幸であっぷあっぷと言ってらぁ。

 あぁこら、まてまて。頭なんて下げるなやい。下げてもらえる柄じゃねぇ。

 お世話になっただのなんだのと、なんのことやらさっぱりだ。そんな昔のことなんざ、クソと一緒に便所に流したやい。


 それはそうと、やぁ知ってるかい。


 どこでなにがどうなった。そんな詳しいトコはアレだがよ。あの後すぐに、街で男の死人が生き返ったって大騒ぎになったらしい。


 確かに一度は病でぽっくり逝っちまったんだがぁ、ところがどっこい棺桶からムクリと起き上り、「腹減った」ってほざいたんだとよ。


 そんで驚くのはこれからだ。話はこれで終わりじゃねぇ。


 なんと、生き返って早々殺されちまったらしい。詳しい事は知んねぇが、なんでもその男、相当あくどい事をしていたってさ。

 ずいぶん恨みを買ってたんだろうね、押し入った暴漢に、メッタ刺しの血みどろとくらぁ。

 風の噂じゃ、愛しのキミの仇討ちだとかなんだとか。……男はそりゃもうすんげぇ死に様だったとよ。

 

 お、しばらく見ねぇうちにえらく良い顔で笑えるようになったじゃねぇか。


 ん? オイか? オイはここの所長に呼ばれたんだよ。

 いやいや、なんて事はねぇさ。どうせいつもの事だ。とんと意味はわかんねぇが、オイが仕事に励んじまうと決まって小部屋にぶち込みやがる。


 なんでも、オイの仕事がまずいんだとよ。


 ったく関係ねぇと突っぱねてみても、奴さん、頭から信じちゃくれねぇときてらぁ。

 しかも、あんまり出たり入ったりを繰り返してるもんだから、最近じゃぁその部屋にくだらねぇ名前までつけてやがる。


 ……ところでアンタは、何でこんな所に居るんだい? ここが件の『作楽柵』ときてんだが――それにしても不思議だな。


 ……お互い鉄格子の向こう側たぁ、ずいぶん面白い所で出会ったもんだ。










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