キュンとする短編集。

いずも

まじめなフリ。



「うわー、またおんなじツートップじゃん」


「いつもすっげえなー」



テスト明け、上位者一覧が貼り出される。


私は貼り紙の前の人だかりを無視して教室に入る。




見なくても分かる。



教室に入るとクラスメイトに声をかけられる。


「また2位じゃん、すごいね!」


「ありがとう」


また2位…ね。




ピコン


椅子に座った途端スマホが鳴る。



校内はスマホ禁止なのでバレないように確認する。



『今回も勝たせてもらったわー』



チラッと教室の端の席を見ると机の下でスマホを隠し持ってニヤリとする彼。






ピコン


『仕方ねえから放課後教えてやるわ』



…どうもご親切に。


返事の代わりに既読無視。






「クレープ食べに行かない?」


「ごめん、今日はダメなんだ」



数少ない友達の誘いを断って

放課後向かうのは家と反対方向。



人通りの少ない裏道に入って結構経ったのに

なかなか来ないな、と思いつつ歩いていると



「うわっ!」


突然肩を掴まれた。

 


「ハーハー、やっと追いついた!」


肩で息をする様子から結構走ってきたっぽい。



「遅かったね」


「掃除当番だったんだって」


「それはおつかれ」


「サボって早く帰りたかったー」


「真面目だもんね、学校では笑」


「誰が言ってんだ笑」


軽く言葉を交わして

周りを気にしつつ少し離れて歩く。



「ただいまー」


カギをあけながら叫ぶから、


「誰かいるの?」


「いや、防犯のため笑」


「なにそれ笑、おじゃましまーす」




「ちょっと着替えるから待ってて」



いつものように洗面所で手洗いうがいしてから

片づいたリビングを通って階段を上がる。


ガサゴソ音がする部屋の前で立ち止まる。




しばらくするとスーッとドアが開く。


「ん、いいよ」


ジャージ姿は何回見てもドキドキする。

…なんて言わないけど。




「で、どこ間違えたの?」


しっかり勉強会を開催する。



「ここが時間足りなかったんだけど」


「あー、これね、簡単なやり方があるのよ」


基本は優しいけど、



「ここはシンプルにミスした」


「そこは絶対落としちゃダメ笑、3回やりなおしー」


たまにいじわる。




勉強は終了、ようやく休憩タイム。


「はい、おつかれ」


キンキンのコーラで乾杯。



「…なんか、いつもトップですごいね」


ふと思ったことを口にする。


「とか言いつつ2位キープしてんじゃん」


「みんな知らないけど15点くらい差あるもん」


と、じとーっと睨んでみるとハハッと笑われる。




「…なんか眠くなってきた」


頭使ったからかな。


「そろそろ帰る?」


「いや、10分寝させて」


まだ時間も遅くないし机に突っ伏して少しの仮眠。





何分経ったのか、徐々に意識がはっきりしてくる。


頭に温もりを感じてそれが彼の手だと分かるのに

時間がかかった。


もう目覚めてたけどなんとなくそのまま目を瞑る。



「いつもおつかれ、でも1位は譲れないわ」


なんて私の頭を撫でながら

1人でしゃべってるのがちょっと面白い。


「こうやって勉強教えられなくなるからね」


へー…




「あー、そろそろ起こすかー」


「…フフ」


ちょっと我慢できなくなった。



「え!起きてんのかよ」


パッと頭から温もりが消える。


「だって、ずっと1人でしゃべってるんだもん笑」


「…ずっとって……いつから聞いてた?」



「さあねー笑」


「いや、さっきのは、そのー」



モゴモゴ言い訳する彼を放って部屋を出る。


「また明日!」


「ちょっと!送ってく!」








これが誰も知らない学校外の私たち。

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