隣のコートのあなた。

 

 ……え。




あなたを見た瞬間、時が止まったようだった。



隣のコートで誰より必死に動き回るあなたの姿に

僕は目を奪われた。





「おーい1年!ボーッとすんな!」



先輩に怒鳴られたあとも


僕の頭からあなたが離れることはなかった。




あなたが隣のクラスだということも

あなたにぴったりのきれいな名前も

あなたのちょっとハスキーな声も


知ったのはもっと後だったけれど。






「また半面かよー、試合前だっつうの!」


体育館使用部活の『女バス』の文字に

文句を言う同級生の横で、僕は緩む口を押さえる。




一生懸命ボールを追いかけるあなたに

息を切らしながら汗を拭うあなたに

友達と話しながら大きな声で笑うあなたに


僕は何度釘付けになったことか。




ずっと遠くから見てるだけでよかった。



…だけど

放課後、知らない奴に呼び出されるあなたを見て



あなたに知ってほしい

あなたと話したい

あなたと笑い合いたい



そんな感情が出てきてしまったんだ。

 

こんなこと初めてだったけれど。





一世一代の勇気を何度も振り絞って、


あなたに話しかけて

あなたと連絡先を交換して

あなたを放課後呼び出して



そのときのことは緊張しすぎて何も覚えていない。



…だけど




半面練習の今日は、


「さっきのシュート、かっこよかったよ」



隣のコートからのあなたの声で頑張れる。








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