風邪
「……あっつ」
アラームの音で目が覚めると妙な不快感。
体全体が熱く何かがのしかかっているような重さ。
「…さいあく、なんで」
体が動かず、起き上がることもできない。
ボーッとしてまわらない頭を動かし、
まずするべきことを考える。
今日を楽しみにしていたであろう相手に電話、か。
まだ寝てる時間かな、なんて考えたのは杞憂で
相手はワンコールで出てくれた。
「おはよー!」
向こうから普段よりテンションの高い声が聞こえて
申し訳なさから勝手に涙がこぼれる。
「……あ、あのさ。…グスッ」
「え、泣いてる?!どうした?」
「……グスッ」
「え!大丈夫…じゃないか。すぐ行く!」
「いや、だいじょ…」
ツー ツー ツー
ごめん、ほんとごめん。
頭の中で何度も謝る。
「…ん」
「やっと起きた、あ!起き上がるなって」
目の前の優しい顔を見て徐々に記憶が戻ってくる。
電話切ってすぐ寝ちゃったんだ。
「…ほんと、ごめん」
「謝らないでよ、それより体どう?」
と、ピトッとおでこに当てられた手が冷たくて
初めて冷却シートの存在に気がつく。
首元の氷枕、
テーブルに置かれたスポーツドリンク。
…あーなんでこんなに優しいんだろう。
「見当たらなかったから買ってきちゃった」
と、差し出してくれた体温計を素直に脇に挟む。
「……ほんとにごめんなさい」
「俺はぜんっぜん大丈夫だから」
「でも…」
「それより自分の心配してよ」
微笑みながらそう言う彼の優しさに
また涙がこぼれる。
風邪をひいたら涙もろくなるのだろうか。
「もー泣かないでよー、あ、まだ熱高いね」
「でも朝より全然マシ」
「そっか、よかった」
今日のために用意したワンピース。
3日前に染めたばかりの髪。
昨日新しくしたネイル。
私だってこんなに楽しみにしてたのに、
昨日もちゃんと早く寝たのに、
とますます悲しく申し訳なくなる。
「髪色変えたよね、かわいい」
「……うん」
「ネイルも新しいじゃん、いいね」
「…うん」
「今日のためにかわいくしたんだよね」
「うん」
「寝てればすぐ治るよ、デートはまた行こ」
「…ありがと」
…大好き
って元気になったらちゃんと言おう。
「今日は寝てな」
あっつい手をぎゅっと握ってくれて
今度は心地よく眠りについた。
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