クラウドファンディング結果報告

【お知らせ】


星光歴1026年9月25日、復讐を達成しました。

皆様のご支援のお陰で、睡蓮公女アヤ・ローゼンブルグとその兵士たちは死に、ローゼンブルク城は炎上しました。

ご協力、本当にありがとうございました。

これより教会の建設、及びリターンの制作に移ります。制作の進捗も当ページ上でお伝えいたしますので、皆様ぜひお待ち下さい。


改めまして、少年フィンの復讐をご支援いただいた皆様、本当にありがとうございました。


支援総額 32億5,150万ドルガ


『睡蓮公女へ復讐したい!』復讐プロジェクト

代表 フィン

文責 復讐の女神エリニュス


――


「では、ラストカットだ。合図をする故、振り返って、謁見の前を出ていけ。行くぞ。3,2,1……」


 女神エリニュスが指で○を作ると、カメラの中のフィンは振り返り、謁見の間を出ていった。ドアが閉じる。


「……よし」


 リターン用の復讐映像に使うカットだ。これに編集で字幕を入れる予定である。


「終わったか? 女神様」


 映像を確認していたエリニュスに声がかかった。『特等席で復讐を見届けたいコース』の特典で転移してきた白銀の勇者だ。


「うむ。これにて復讐は終いだ。後は教会だな」


 第3ゴールまで達成したので、ルメルヤ村の跡地に教会を建てることになっている。建材や職人の手配など、やることはまだまだある。

 しかし、ひとまず復讐は終わったのだ。


「アヤはどうなったんだ? やっぱり、天国行きか?」

「あのサメは……食らったものの魂を捕らえて放さぬようだ。アヤは最早、天国にも地獄にも行けぬ。そのうち魂も消化され、虚無となるだろう」

「おっかないなあ。女神様の加護も通じないのか」


 魂が地獄に行くのなら、女神の加護に守られる。だが、そもそもどこにも行けずに消滅するとなると女神の加護は発動しない。アヤの目論見は全て崩れ去った。


「……では、そろそろ汝を元の世界に送り返すぞ。忘れ物はないな?」

「待ってくれ。その前に聞いておきたいことがある」


 魔力を集め始めたエリニュスに対して勇者は問いかける。


「もう1人、転移してる奴がいるはずだ。どこにいる?」

「……『特等席で復讐を見届けたいコース』への申し込みは2名。1名は汝、もう1名はアヤ。以上だ」

「違う。もう1人、『この武器で復讐してほしいコース』に申し込んだ奴がいる」


 女神の眉が僅かに動いた。


「限定1名のコースに真っ先に申し込んだ奴だ。来ないわけがない。最初はアヤかと思ったんだが、違うと言っていた。

 あいつより早く申し込めて、なおかつ10億ドルガを迷わず用意できる人物は1人しかいない。

 ……女神様、あなたが、最大の支援者なんだろう?」


 女神は答えない。否定も、肯定もしない。


「多分あなたは、アヤがわざと復讐対象になろうとしていることに気付いた。そして、その魂が何をしても自分の加護で天国に行ってしまう事にも気付いた」


 加護を取り消せば、それは神が自ら定めたルールを自ら破ることになる。世界への、そして神自身への影響は計り知れない。


「だからあの子の復讐を全力で支援したんだ。普通、クラファンページやリターンを作るのは、復讐者が自分でやることだろう? だけどあなたは、何から何まであの子の代わりにやっていた。おまけに映像まで作る手の込みようだ」

「否。フィンが幼い子供故、我が手を貸したに過ぎぬ。質の悪いプロジェクトを提出されては、サイトの評判に関わる。あと映像は間違いなくウケると思った」

「……まあ、それもあるだろう。だけどもう1つ利点がある。

 クラウドファンディングページを作れば、誰よりも早くページにアクセスできる。つまり、『この武器で復讐してほしいコース』に申し込める」


 女神は大きく息を吐いた。


「愚問。利点がない」

「ある。アヤの目論見を崩すのに、ピッタリの復讐を指定できる。そもそも『通りすがりのサメ』なんてドンピシャな復讐、知らなきゃ用意できないだろう?」


 アヤはどのように殺されようと、フィンに殺されるという事実そのものに悦んでいただろう。そして魂は天国へと送られるはずだった。

 その目論見を唯一砕けるのが、『事故』だった。女神は自ら支援者となることで、復讐の武器に『事故』を指定した。

 なぜ、サメなのかはわからないが。


「……そうだとしたら、どうする」


 女神の声に、険が籠もった。いつの間にかカメラは消え、代わりに大鎌が握られていた。


「どうもしないよ。ただ……」

「ただ?」


 勇者は悲しげに言った。


「言ってくれれば、俺が代わりにアヤを殺したのに」


 大鎌を握る手から力が抜けた。エリニュスはじっと勇者を見つめて、それから、ほう、と溜息をついた。


「それはできぬ。楽園に送られた魂が禁を犯せば、追放され、永遠に地上を彷徨うことになる」

「そんなもん、最初に復讐をした時から覚悟してる」

「駄目だ。汝をそのような目に遭わせるわけにはいかん。それでは何の意味もない」

「俺にしてみりゃ、お前がそんな顔してる方が、辛い」


 女神はハッとして、自分の顔に手をやった。それから表情を固めると、手のひらに魔力を集め始めた。


「……話が長すぎたな」

「待て、話はまだ……!」

「御清聴ありがとうございました。これより元の世界に転移いたします。お足元に十分お気をつけください」


 女神の手から放たれた光が、謁見の間を包む。


「エリン!」


 勇者は絶叫を後に残し、その場から消え去った。

 誰も居なくなった空間に向かって、彼女はぽつりと呟いた。


「さよなら、ハルムート」



――



 ルメルヤ村に新しい墓が増えていた。フィンの姉の墓だ。

 あの後、フィンは『死霊術』が切れた姉の遺体を村まで運んできたのだ。フィン1人の力では難しかったが、護衛のリザードマンが自発的に手伝ってくれた。魔物にも気の毒に思われていたのだろう。

 両親の墓はクラウドファンディング期間中に作っていた。その隣に姉の墓を作った形になる。遺体が見つからなかったから空けておいてほしいと、フィンがエリニュスに頼んでいたのだが、残念ながら空白は埋まることになった。


「フィン」


 呼ばれて、フィンは振り返る。復讐の女神エリニュスがいた。


「女神様……」

「復讐達成おめでとう。これで汝は復讐クラウドファンディングプロジェクトの目標を達成した」


 女神は無表情でフィンに告げる。


「汝は殺人の罪を犯したが、我が、復讐の女神エリニュスが赦そう。その魂は悪魔に攫われず、死後天国へ送られることを誓おう。

 ……習得したスキルは好きに使え。これからは汝自身の手で、奪われた人生を取り返すが良い」

「……できません」

「何?」

「確かに復讐はできました。でも、お父さんもお母さんもお姉ちゃんも、村の皆も帰ってこない……。復讐しても、何も生まれませんでした」


 縋るような目付きのフィンに対し、エリニュスは即座に反論した。


「否。フィンよ、復讐は始まりである。お主は今、マイナスからゼロになった。これで初めてプラスへ踏み出せるのだ。

 ……取り返す、という言葉は間違いだった。訂正しよう。フィンよ、これからは汝自身の手で未来を生み出すが良い」

「女神様……」

「それに、復讐が生みだしたものもある」

「何ですか?」

「経済効果」

「経済効果」


 エリニュスは手元に手帳を呼び寄せた。


「まず、建築需要だな。クラウドファンディングのゴールに設定していた教会建設の段取りは手配してある。近日中に業者と建築資材が着くだろう。

 それに、魔物に焼かれたローゼンブルグ城の片付けと再建も始まるだろう。娘が死んだということで、教会だの慰霊堂だのが建つかもしれんな。いずれも大規模なものになる。相当の金が動くだろうな。

 それと、ローゼンブルグを中心としていた経済圏も大きく動くだろうな。商人たちが移動したり、販路が変わったり……それに伴って色々な支出や収入があるだろう。一つひとつは小さくても、集まれば大きな効果だ。

 後は、異世界の工場に、復讐達成記念ステッカーとTシャツを発注した。建築に比べたらささやかなものだが、何、金が動くという点では変わらない」

「は、はい……」


 様々な経済効果が並べ立てられる。いずれも戦争特需のようなものなのだが、幼いフィンにはわからない。


「それにフィンよ。メソメソしている暇はないぞ。お主にはやることがある」

「え?」


 訝しむフィンの前で、エリニュスの手が光る。光の中から沢山の紙とペンが現れた。


「クラウドファンディングのリターンの1つ、直筆お礼状の作成だ。汝、字は書けるか?」

「え、い、いえっ」

「ならば仕方ないな。我が教えよう。復讐の女神はアフターサービスも万全なのだ」


 エリニュスはにんまりと笑うと、『復讐者必見! 異世界でもわかる字と文章の書き方(著:復讐の女神エリニュス)』を取り出した



――



 青い空。白い雲。さんさんと光が降り注ぐ中、エリニュスは釣り糸を垂らしていた。

 山と平原の世界に唯一存在する海。その沖合に船を出して、エリニュスは釣りに勤しんでいた。だが、勤しんでいても楽しんでいるという雰囲気ではない。真剣そのものの表情だった。

 釣り竿がしなった。大物だ。エリニュスはやや緊張した面持ちで釣り竿を引き上げた。

 まずマグロが水面から顔を出した。大きいマグロだが、エリニュスの狙いはこれではない。マグロは餌だ。

 マグロに噛み付いたものが現れた。サメだ。エリニュスが乗る船よりも大きいサメが、水中から飛び出してきた。

 サメは空中で雄大な弧を描き、エリニュスに向かって落下してくる。鋭い牙が生えた口を開いて。


「ふんっ!」


 女神は両手をサメに向かって掲げた。魔力が放たれ、サメの体を光が包むと、女神に噛み付く寸前でサメの姿が掻き消えた。転移魔法によって、サメはこの世界から消えた。

 送り先はこの世界とは正反対の、1つの大陸が無限の海原に囲まれた世界だ。アヤを成敗するためにいろいろとチートスキルを与えて改造したサメでも、気ままにやっていけるだろう。


「これでよし、と」


 フィンの復讐の後始末はこれで済んだ。後は、リターン品を作って教会を建てればプロジェクト完遂だ。

 フィンは毎日文字の勉強や教会建設の手伝いなどを頑張っている。今の所、忙しさに追われていて、思いつめている様子はない。

 復讐中、それに復讐が終わった後は酷いものだった。放っておけば思いつめた果てに衰弱死してしまいそうな様子だった。

 神となったエリニュスにも良心は残っていた。アヤの狂気は止めなくてはいけなかったが、そのために利用したフィンが壊れていくのは見ていられなかった。またアヤのようなことになってしまっては困る。

 だから仕事を与えた。やることがたくさんあるフィンは、しばらくは死ぬことなど考えていられないだろう。そのうちに、きっとやりたいことが見つかるはずだ。

 『テイマー』スキルはサメを呼び出すために習得したものだが、使い道は色々とある。フィンが将来大人になった時に、きっと力になるだろう。人と魔物の新たな関係を築き上げるも良し、人を滅ぼす魔王になるのも良し、田舎で魔物と仲良くしながら、ほのぼの畑を耕すのも良し。復讐の女神はよっぽどのことがない限りは関知しない。


「……そうだ。サイト更新をせねば」


 エリニュスはノートパソコンを召喚し、運営する復讐クラウドファンディングサイトを更新する。

 打ち込むのは、閲覧者たちへのメッセージだ。


――


 

 ご視聴いただき、誠にありがとうございました。

 復讐クラウドファンディングサイト『エウメニデス』は引き続き、異世界の皆様の復讐を支援していきます。

 各プロジェクトへの復讐だけでなく、当サイトへのご支援も受け付けております。

 もしよろしければ、ページ下部より「応援する」「各種SNSに投稿」「プロジェクトをフォロー」「レビュー」などをお願いいたします。

 どうか、皆様のご協力をよろしくお願いいたします。


 復讐クラウドファンディングサイト『エウメニデス』

 代表 復讐の女神エリニュス

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村を焼いた極悪領主に復讐したいので、クラウドファンディングで復讐資金を集めます! 劉度 @ryudo

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