第7話 パーティⅡ

 冒険者―――ガレスからのパーティ加入の話を受けたが、俺は断った。

 その後、俺は当初の予定通り薬草収穫の依頼をこなそうとしたんだが、一人同行者が増えた。


「‥‥‥‥」


 どんより、という気配を纏った女の子―――ミーナだ。

 彼女はガレスのパーティのメンバーだったが、先程の俺への勧誘直後にパーティから外された。‥‥‥‥どうやら俺の言葉が原因だったみたいだ。


 ミーナはパーティランクDとして依頼をこなし、早急に冒険者ランクを引き上げた結果、冒険者ランクEとなった。ただ、その結果ミーナは薬草の収穫をやったことがないそうだ。

 別にパーティとして出来る者がいるなら、それでも構わないと俺は思う。


 ただ、ガレスのパーティにも事情があるみたいだ。

 聞けば、ガレスと魔法使いベリルは近い将来、結婚するそうだ。そして結婚後、ベリルは冒険者を辞める。それは同じパーティメンバーのウェスターも承知済みの話だった。

 ただ、これはすぐにどうこうというわけではなく、もう少し先の話だそうだ。

 だから、それまでにAランク冒険者となること、そして、稼いでいい暮らしをしたいという考えに変わりはない。そして、Aランクパーティとなれば、パーティを抜けるベリルの代わりになる魔法使い、ないしは、それに相当するアタッカーを追加人員にしたいと考えているそうだ。その際にはまた声を掛ける、と言っていた。まだ、俺を諦めてはいないらしい。


 ただ、何時どうなるか分からないし、ましてや冒険者なんて危険な仕事だ。今のパーティで維持できる保証はない。

 魔物に怪我を負わされ、引退するかもしれない。それどころか、下手をすれば命を落としかねない。そうなったとき、ミーナ一人が取り残されることも考えられる。だから、今自分達がいる内に薬草の採取などの基本的な事を教えておきたい、と思い至ったそうだ。


 その結果がミーナをパーティから外したんだとすると、随分と乱暴な話だ。だが、ミーナの兄であるガレスからしてみると、また違った意味合いがあった。

 ミーナ自身は酷く人見知りをする性格らしい、子供の頃は何処に行くでも兄について歩いていて、同じ村のウェスターとベリルくらいとしか、まともに話せなかったらしい。

 ガレス達が冒険者となり、村を離れた後は一人で魔法の勉強をして、現在では回復魔法を中心にある程度の魔法は使えるようになった。

 そして、ミーナは冒険者となりガレス達のパーティに加わった。と言う事でガレス達以外とはパーティを組んだことがない上に、まともな対人関係が築けるかさえ未知数とのこと。


 ガレスは兄として、妹の今後が心配であり、今のうちに冒険者としてやっていけるかどうか見極めたほうがいいと思ったみたいだ。

 そのために、誰かとパーティを組んでみて、ちゃんとやれるか、それとも出来ないのか、試す必要があった。

 そして、その誰かに選ばれたのが、俺だった。


 ‥‥‥‥ガレスの言を聞き、いくつか思ったことはあった。だが、それらはとりあえず置いておこう。その上である一つ、ガレスは見落としていたことがあった。

 俺はそれを指摘した。


「今日、俺に声を掛けてきて、ここまで引っ張ってきたのはミーナだったぞ」

「‥‥‥‥人見知りは大丈夫になったかもしれないが、パーティとしては未知数だ」


 どうやら『兄』という生き物は妹が心配なようだ。

 

 そして現在、俺とミーナは一緒に薬草の採取に向かっている。

 本来なら、俺は単独で薬草の採取に向かうつもりだったんだが、ある物をウェスターから渡された。それは薬草採取に関するメモだった。

 今回引き留めたことに対する謝罪とミーナ、いや、ガレスの迷惑料だから受け取って欲しい、と言って渡してきた。

 何とも受け取りにくいモノだったが、ミーナの現状に少なからず俺も関わった以上、放っておく訳にはいかない。メモは有難く受け取り、そしてメモに書いてあった薬草の群生地に向かって俺とミーナは共に出発した。



 現在、俺達はフィステルの南門から出て、東の森から少し逸れた草原を歩いている。

 メモによると、森の中よりも森の周囲の草原の方が薬草が生えていることが多いそうだ。

 太陽の光を浴びれる場所で肥沃な土壌の方が良く育つ、とメモには書いてあった。

 なるほど、確かに植物は太陽の光と良い土がないと育たないと言われている。

 森の中は薄暗く、太陽の光は差し込まなかった。だから、薬草は育たない、書かれている。また、西に進んでいくと太陽の光は差し込むが、海に近づくため潮風の影響で植物の成長は良くない。

 探すなら、森に近く、太陽の良く当たる場所を探すべき、とデカデカとメモに書かれている。態々ありがたいことだ。


 俺は、その指示通りに探してみた。するとすぐに見つかった。その場には、緑色の濃い葉っぱが生い茂っている。

 この薬草の葉の部分をすり潰し、エキスを抽出すれば回復薬になるし、このまま傷口に当てれば傷薬代わりにはなる。茎の部分は解毒作用がある、そのためこの部分も持って帰れば、買い取りの範囲にはなる。

 つまり薬草採取とは葉の部分と茎の部分を持ち帰る事、それが真髄みたいだ。


 そして、注意事項も書かれていた。

 絶対にやってはいけない事、それは根の採取だ。

 薬草は葉はすぐに生えてくる。茎もすぐに伸びてくる。だが、根は弱い。そのため、根がダメになると今後の収穫できる薬草が手に入らなくなる。

 それは薬草の採取が出来なくなるだけでなく、薬草から作られる回復薬の価格高騰につながり、回復薬が買えない冒険者が命を落とす、結果として冒険者の身に降りかかってくる。

 『自分の命を守るために、薬草の命を守ろう』 とメモにはこれまたデカデカと書かれていた。

 非常に勉強になる、これはいいものを貰った。

 小さな視点ではなく、大きな視点で考えられている。知るか知らないか、その差は大きい。


 さて、メモに感心ばかりしていては日が暮れてしまう。

 ここに見えるだけで、10束にはなる。5束で依頼は達成だ、俺とミーナ両方ともが依頼出来る。獲得報酬は40コルドだが、また探せばいいだけだ。

 それに、魔物と戦わずに稼げるのであれば、これで稼いでいい装備を買えばいい。そうすれば、自身の命を守りつつ、確実にステップアップ出来る。

 新人冒険者であれば、誰もが通る道だが、それ故に考えさせられる仕事だと思う。


 俺はその場に、薬草の前に膝を付き、茎の下の方、地面すれすれの位置をナイフでゆっくりと切っていく。

 力尽くでやれば、根を傷つける恐れがある。雑に扱わず、丁寧に切っていき、切り終えた。

 葉や茎が地に落ちない様に優しく受け止め、持ってきていた布を広げ、その上に並べる。

 布の上に置くのは、葉や茎を傷つけないため、傷がつくと買い取り価格が下がるからだ。

 さて、次を切るか。


 薬草を切っていき5本目に達したとき、あることを思い出した。

 ‥‥そう言えば、ミーナはどうしているだろうか。

 薬草を切る事に集中していたため、ミーナの存在を忘れていた。

 立ち上がって周囲を見渡しても、ミーナの姿は見えない。

 しまったな、はぐれてしまった。‥‥無事であればいいんだが。


 俺はその場からミーナを探すために走り去った。

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再人生は冒険者ー組織人から自由人にー あさまえいじ @asama-eiji

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