第6話


 それから程なく、わたくしは王族の婚約者候補から、正式に第一王子殿下の婚約者へと決まった。


 そして、わたくしと婚約したことで、第一王子殿下が王太子に一番近くなった。近々陛下から、その内定が出るかもしれない。


 それでわたくしの教育に、益々熱が入ったというワケね。王子妃教育が、王太子妃教育に変わる日も近いだろう。


 王族へ嫁ぐことが決定した今、これまで以上にわたくしは、誰にも弱み・・を見せられない。


 もう、時間が迫って来ている。


 体調管理もできないなど、わたくしには許されないことなの。


 わたくしは大丈夫よ、大丈夫だから。


 後で、ちゃんと……この手を、放すから――――


 お城へ、殿下へ嫁ぐその前には――――


 一人になっても、平気なように頑張るから。


 だから、どうか――――それまでは、待っていて? わたくしの、・・・小鳥さん達。


♩*。♫.°♪*。♬꙳♩*。♫



 第一王子殿下が王太子に内定したと思ったのだけど、なぜかその発表が先延ばしにされた。


 不思議に思ったけれど、わたくしは王子妃教育が忙しく、婚約者である第一王子殿下と顔を合わせることが減っていることに、なにも疑問を抱かなかった。


 多分わたくしは、第一王子殿下ご本人のことには、大して興味がなかったのでしょうね。いずれ結婚しなくてはいけない相手だとしか、思っていなかった。


 だから――――


 定期的に開かれる、公式な・・・お茶会・・・で第一王子殿下に、婚約を解消してほしいと言われても、その理由が『偶々出逢った平民のお嬢さんに恋をしたから』だと言われても、特になにも思わなかったのでしょう。


 これから大変なことになる、という思考が真っ先に過りましたが。


 それよりも……むしろ、これでやっと解放される! との思いの方が大きかった。


 まぁ、わたくしの価値も見事に無くなってしまいましたが。


 ああ、殿下の侍従がそっと席を外しました。きっと、陛下へ報告に行ったのでしょう。


 とりあえず、この考え足らずの殿下へ忠告だけして、自分のこの先のことを考えましょうか。


 それにしても殿下は、相変わらず察しが悪いですね。わたくしの言っていることを、額面通りに『愛玩動物』についての雑談だと思っているご様子。


 これでは、殿下の恋したという平民のお嬢さんが不幸になるのは必至ではありませんか。


 わたくしの、小鳥さん達みたいに……


 本当に世話の焼ける方ですこと。


 貴族社会という囲いの中は、しがらみが多いというのに。その中でも、お城という強固な檻に、なんの覚悟も知識も無い平民女性を入れて、囲ってしまわれるおつもりですか。


 本当に、なにも考えていないのですね。


 呆れますこと……あぁ、いえ。殿下は生まれたときより、その檻の中で雁字搦がんじがらめにされて育って来た方なのですから、もしかしたらそれが当たり前過ぎて、その檻の強固さと、柵の多さにお気付きではないのかもしれませんね。


 まぁ、殿下を縛っている、その雁字搦めの柵は……もうそろそろ緩むかもしれませんけれど。


 そして王位継承権という柵が緩む代わりに、今度は別の・・・


 けれど、もうわたくしが殿下を心配する必要はありませんね。


 むしろ、わたくしは自分の身を案じるべきですわ。


「殿下の幸運・・をお祈りしておりますわ」

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