第7話
「殿下の
と、呆然とした様子の殿下の前から辞する。
城の中を速足で、けれど優雅に見えるように、表情を崩さないままで移動。
急いで馬車に乗り込み、屋敷まで走らせる。
さあ、これからは時間との勝負になるわ。
王族との婚約を解消されたわたくしは傷物。
それも、どこへも嫁ぐことのできない、両親にとっては価値が無くなってしまったただのお荷物。
修道院行きならば、まだマシな方でしょうね。
もし殿下ではない方へと嫁げたとしても、別の……問題のある方へ嫁がされてしまうか、最悪は『病気』にさせられて、この命さえも危ういかもしません。
そして、わたくしが不要になれば、わたくしの小鳥さん達もが不要となってしまう。
あの屋敷には、居られなくなってしまう。
殿下との婚姻が整ったら、小鳥さん達をわたくしから解放してあげるつもりだった。
こんな形で放り出すような真似なんて、絶対に駄目。そんなことはさせない。
ああ、早く家に着かないかしら。
急がせている筈の馬車の速度にももどかしく思い、けれどこれからのことを考える時間にしようと、思考を働かせます。
ガタガタと揺れていた馬車が止まったので、ドアを開けて飛び出し、屋敷の中へ、自室へと急ぎます。
「お嬢さま、どうしたですか?」
「王子サマとのお茶会は?」
小鳥さん達が驚いた顔で、部屋に飛び込んだわたくしを見詰めます。
「急いでいるので手短に話します。わたくしは、婚約解消されました」
「え?」
「はあっ!? なんだよそれっ!?」
「しっ、静かに」
声を上げる小鳥さん達に鋭く注意すると、二人は真剣な顔で頷いてくれました。
「殿下との婚約が解消されたわたくしには、もうこれまでの価値がありません」
「そんなことないっ!?」
「静かに、と言った筈です」
「っ・・・」
顔を歪めて口を閉じる小鳥さん。
「なので、わたくしは逃げることにしました」
「「っ!?」」
「直ぐにこの屋敷を出ます。付いて来て、もらえるかしら?」
それから、黙ってこくこくと頷いてくれた小鳥さん達と大急ぎで荷物をまとめ上げ、三人だけで
王子妃教育で培った地理と諸外国の情報を精査し、今から最短で向かえる外国を目指して移動。
袖の下とお嬢様の我儘とをごり押しし、外国へ向かう船に乗ることができました。
「・・・これからどうすんだよ? お嬢さま」
「外国行く、ですか?」
不安そうな顔で小鳥さん達がわたくしを見上げます。
「そうねぇ・・・とりあえずは、着いた先の国で国籍を取得しましょうか」
「国籍を取ったらどうするんだ?」
国籍を取得して、それから・・・
「お別れ、しましょう」
もう、手を放さなきゃ。
「は?」
「お嬢、さま?」
「今まで一緒にいてくれてありがとう。二人には、とても感謝しているわ。でも、ほら? こうして出奔してしまったから、わたくしはもう貴族令嬢ではないでしょう? だから、もういいの」
わたくしの傍にいてくれなくても。
「なに、を」
「もう、わたくしから解放してあげるわ。長い間、ごめんなさいね」
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