第2話


 ――――愚かなわたくしは、自分のことしか考えていなかったのです。


 それから二月ふたつき程経った頃でしょうか、待ちに待ったわたくしの許へ……美しい声の小鳥さん達がやって来たのです。


 孤児院で見たときの痩せこけたお顔は、以前よりもふっくらとした子供らしい丸みを帯びていて、粗末だった服装は身綺麗に整えられて、侍女のお仕着せを着せられていた、よく似た顔立ちの二羽の小さな小鳥さん達。


 無表情にわたくしを見やる小鳥さん達に、わたくしは言いました。


「お唄を歌ってくれる?」


 大きな方の小鳥さんは、顔を歪めて大きく息を吸うと、嫌そうに口を開きました。


 嫌そうな顔だとしても、小鳥さんの喉から出る声は、確かに美しい声でした。


 けれど、その唄は流行りの恋歌で、わたくしの焦がれた、安堵するような、あのとても優しい響きの唄ではなかったのです。


「わたくしが聞きたいのは、そのお唄じゃないわ」


 そう言うと、歌った小鳥さんは嫌そうに別の唄を歌いました。けれど、その唄もわたくしの求める唄ではありませんでした。


「このお唄でもないわ。違うの」


 そう言って、わたくしは小鳥さんへ歌ってくれるよう、ねだりました。


 小鳥さんは、嫌そうな顔で次々と違う唄を歌って行きました。


「違うの。違うわ。いいえ、これじゃないわ」


 わたくしが違うと言う度、小鳥さんの唄がどんどん雑になって行きました。


 そして、とうとう――――


「ふざけんなっ!? 気に入らねぇなら一言気に入らねぇって言やぁいいじゃねぇかよっ!?」


 歌っていた小鳥さんが、顔を真っ赤にして怒ってしまいました。それは、美しい声には似合わない、乱暴な口調でした。


「? どうして怒るの? あなたのお唄は、とっても綺麗よ?」


 わたくしは、なぜ小鳥さんが怒っているのか不思議でした。


「だったらっ、一体なにが気にくわねぇ!!」

「どのお唄もとても上手だったけど、あなたが歌ったのは、わたくしが聞きたかったお唄じゃなかったんですもの」

「はあっ?」

「……おじょうさまは、どんなうたがききたい……です、か?」


 それまで、ずっと黙っていたもう一人の小さな小鳥さんがたどたどしく口を開きました。お唄の上手な小鳥さんとはまた違った、可愛らしい声でした。


「わたくしが聞きたいのは、あなたたちが孤児院で小さな子たちに歌ってあげていたお唄よ。優しい声で、なんだか安心して、眠たくなってしまうようなお唄。なんて名前の曲なのか、わたくしも知らないの。聞いたことのなかったお唄だから」

「は?」 


 大きな方の小鳥さんは、ぽかんとしたお顔でわたくしを見詰めました。


「……それって、これのこと? です。♪~」

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