第4話


 マナーの授業を兼ねた朝食を終えて一息入れ、


「こもりうたを歌ってくれるかしら?」


 自室で、わたくしの侍女として仕えることになった小鳥さん達へとねだります。


「おじょーさまは、そればっかだな。つか、二度寝でもする気かよ? いいご身分だな」


 顔をしかめる小鳥さん。


「二度寝? それはとても素敵な提案ね。でも、残念ながら、これからお稽古よ。今は、その合間のちょっとした休憩なの」


「ほかのうたはいらない、です? こもりうたは、ねむれないこのためにうたう、うた。です」


 ピアノの蓋を開けながら、小さな小鳥さんがたどたどしく言いました。


「? 寝ないの? どうして? 眠れる時間は限られているのだから、眠れるときにきちんと寝ておかないと、体調を崩してしまうわ」


 わたくしの睡眠時間は決められていて、夜の時間が過ぎて起床時間になってしまえば、身体を休められる貴重な時間が無くなってしまう。それを逃せば、どんなに疲れていても、お稽古が終わるまでは休むことが許されない。

 そんなことで体調を崩すのは自己管理がなっていないことだと、そのせいでお稽古ができなくて時間を無駄にするのか、と叱られてしまうもの。


「は? 赤ん坊とか、ぐずるだろうが。そういうときに歌うんだよ」

「ぐずるってなぁに?」

「・・・あんたって、ホントなんにも知らねぇンだな。ぐずるってのは、機嫌悪くして泣き喚くことだよ」


 やれやれと、小鳥さんが教えてくれました。


「そう。あなたは、わたくしよりも物知りなのね。すごいわ」


 小鳥さんを誉めると、顔が赤くなりました。ふふっ、可愛らしいわ。


「っ……あんたって、ホントへんな奴! 調子狂う」

「そう?」


 それにしても、赤ちゃんってすごいのねぇ。不機嫌になって泣き喚けば、誰かがこもりうたを歌って泣き止ませてくれるだなんて、本当に羨ましいわ。


 わたくしは、不機嫌を顔に出すことはいけないことだと叱られてしまうというのに。

 感情を露わにするのははしたないことで、どんなに怒っていても、泣きたいときでも感情を抑え込んで、顔では優雅に微笑んでいなければならないのですって。

 それができるようになって初めて、完璧な淑女と呼べるのだそうです。まぁ、そういう方はなかなか見られないので、とても難しいことのようですわ。


「あら、もうこんな時間なの?」


 ふと時計を見ると、もう次のお稽古の時間が迫っていました。


「残念だけど、わたくしは次のお稽古の準備をしなくては。それじゃあ、また休憩のときに来るわ」


 そう言い残して、自室を後にしました。


♩*。♫.°♪*。♬꙳♩*。♫

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