いや言っとくけど俺の方が先にカクヨムで北宮純扱ってるからね!?
日本人じゃねえか! と初めてその人物の名前を教わったときにはつい言ってしまったものですが、その生涯を眺めれば、まあかっこよろしい。そしてこの物語は。
……ええと、申し上げていいですか? すごい。
何がすごいって、状況を俯瞰から詳細に落とし込んでいくことのうまさ。第一話にある「匈奴漢」の説明は、あくまで全体を見渡しやすいように、あえてこの言葉を使いますが、めっちゃ乱暴に説明されてるんです。けど、それが実際にどういうことになるのかを、北宮純の半生とともに、丁寧に紐解いて行かれる。この塩梅が、濃すぎず薄すぎず。いまの自分じゃ絶対にできない。できるようになりたい。
知識ゼロじゃない人間で恐縮ですが、この、なんてんだろうな、ちょうどいい勾配のつけ方、ほんにお見事だと思いました。みんなもこの「快い歴史小説的上り坂」、是非登ってみて!
五胡十六国時代。
三国志の時代より司馬氏の内紛を経て始まった、異民族入り乱れる暗黒時代。
だが、そこには愚将ばかりが我欲で跋扈していたわけではなく、むしろ数多の名将や傑物たちが溢れ出した世であった。
本作の主人公、北宮純もその綺羅星のごとき将星の一筋だ。
羌族である彼は、零落する漢民族の晋王朝に与し、そしてまた匈奴漢に転じ、二つの王朝の破滅を目撃する。
数奇な運命を巡りながらも、知られることも語られることもないこの男が、主や故地を持たないその身で何を想い戦い続けたのか?
混沌の世の先触れとなったその半生にクローズアップした、硬派にまとめながらも知識ゼロから没入できる非常に得難い、中編の名著です。