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 学校には「大人しい」子がいる。わたしは「大人しい」子にはなれなかった。大人しい子は、休み時間にはしゃべる子がいて、遊ぶ子がいて、でも、授業で当てられるとをするのだ。


「ーちゃん、答えられる?」

 花実はなみちゃんは先生に当てられると、いつもうつむく。わざとらしく目に涙をためて、首を横にふる。先生は困ったように目尻を下げるだけ。花実ちゃんの隣の子が「だいじょうぶ」と笑う。何が大丈夫だ。なんであの子は授業で発言しなくても許されるのだー



「じゃあ、ほたるちゃん、どうかな」

 担任は何の気無しにわたしに当ててきて。

「【あつい】の意味は、あちちっていう熱いと、本とかの厚いっていう意味があると思います」

 わたしが発言するときは、教室の誰も話さない。決まって誰かが「しゃべれるじゃん」と言って、周りの子供たちは笑って。

 遊びの時に話して、授業で話さない花実ちゃんは許されるのに、なんでわたしは許されないの?

 「大人しい」子と話す状況が反転したわたしには、味方は誰もいない。

 なんて自分勝手なんだろう。花実ちゃんは。自分のことをかわいいとおもってる。


 もう授業で発言するのはやめよう。そうしたら、の子になれるんだから。

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