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あ、しゃべった
こういわれても、おしゃべりが続けられる人って、いるのかな。
自分が思っていることと、違うことを言っている人を見ると、人間はつい口をはさみたくなるらしい。
「ちがうよ!」
教室のざわめきが魔法みたいに止まる、なんでだよ。机の上には歯形がついた鉛筆、まるまったねり消しゴム。新品のランドセルのザラザラした面をそっと親指でなぞった。
「あ、しゃべった!」
待ってたみたいに誰かが叫んだ。そういうのが正しい約束みたいに。
「ねえ、いましゃべってたよね?」
その子は他の子に確認する。なんなの、コレ。わたしに、しゃべるな、って言ってるのと同じじゃん。それとも、わたしもあなたに「あ、しゃべった」って言ってやろうか?
なんで、しゃべったら変な目で見られるんだろう。いつから、わたしはしゃべらない子になったんだろう。
「こわいー。にらんでくるー!」
「ゆきちゃんとは、おはなししてくれたよね?」
ゆきちゃんの目には、わたしは映っていない。友だちなんか、いない。この先も、ずっと。
「おくちないの?」
うん
「しゃべれないの?」
「あって言って」
やだ
いつまで、わたしのおくちは言うことを聞いてくれないのだ。心の声がそのままお口から出る勇気さえあれば、わたしはしゃべれるこになれたのに。
たぶん、魔法をかけられたのだ。
「あ、しゃべった」
これは目の前の相手がしゃべれなくなる呪文だ。
“あ、しゃべった”
じゃあさ、今からしゃべるの禁止! そうしたら、満足してくれるんでしょう?
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