2

 あ、しゃべった


 こういわれても、おしゃべりが続けられる人って、いるのかな。


 自分が思っていることと、違うことを言っている人を見ると、人間はつい口をはさみたくなるらしい。


「ちがうよ!」

 教室のざわめきが魔法みたいに止まる、なんでだよ。机の上には歯形がついた鉛筆、まるまったねり消しゴム。新品のランドセルのザラザラした面をそっと親指でなぞった。

「あ、しゃべった!」

 待ってたみたいに誰かが叫んだ。そういうのが正しい約束みたいに。

「ねえ、いましゃべってたよね?」

 その子は他の子に確認する。なんなの、コレ。わたしに、しゃべるな、って言ってるのと同じじゃん。それとも、わたしもあなたに「あ、しゃべった」って言ってやろうか?

 なんで、しゃべったら変な目で見られるんだろう。いつから、わたしはしゃべらない子になったんだろう。

「こわいー。にらんでくるー!」

「ゆきちゃんとは、おはなししてくれたよね?」

 ゆきちゃんの目には、わたしは映っていない。友だちなんか、いない。この先も、ずっと。

 

「おくちないの?」

うん

「しゃべれないの?」

「あって言って」

やだ


 いつまで、わたしのおくちは言うことを聞いてくれないのだ。心の声がそのままお口から出る勇気さえあれば、わたしはしゃべれるこになれたのに。



 たぶん、魔法をかけられたのだ。

「あ、しゃべった」

 これは目の前の相手がしゃべれなくなる呪文だ。

“あ、しゃべった”


 じゃあさ、今からしゃべるの禁止! そうしたら、満足してくれるんでしょう?

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