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鉛筆が数本転がっている。前歯の形がはっきりと残ってる。誰だ、こんなものをわたしの机の上に置いたのは。
ほんのりと鉛筆の芯の匂いが口の中からして、ああ、わたしだったのかと実感した。まずくてもかじってしまう。何か口に入れないと落ち着かない。
知らないおばさんが教室に入ってきた。茶色いものを楽器のようにかちゃかちゃと鳴らしながら。
「これ、知ってる?」
おばさんが得意そうにいうと、うん、と生徒の一人が微笑んだ。
「じゃ、今日は、そろばんを教えます」
かちゃり、と音が響いた。
そろばん。聞き慣れない言葉だ。心の中で反芻していると、おばさんが手を止めた。
「あなた、頬杖ついてる」
ほおづえ。ってなんだろ。おばさんが苦笑いしながら手にほっぺを当てる。ああ、これが頬杖っていうのか。たしかにわたしの肘が机についていて、ほっぺには手があたってる。
気づかなかった。これって嫌われるのか。
遅れてきた担任がおばさんと目を合わせると、いつものことだというようにため息をつくのが見えた。それだけで苦しくなって、飴を舐めてるみたいに鉛筆の芯の味が口の中に戻ってきた。
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