6

 ぶかぶかの白衣に手を通す。ぼうしの付け方あってるかな。ふわっとした手触りがきもちいい。知らない家の洗剤の匂いはちょっときもちわるい。

 スープにごはん、野菜にお肉、やりたい子の早い者勝ち。みんなはもう位置についてる、楽しそうにお話ししながら。

 スピーカーから流れるわけのわからないアイドルの音楽、それに合わせて手遊びをする子たち。

 目を合わせないように、いちにさんしごにん、ろくにん、と数えて、牛乳のストローを引きちぎる。ふにゃふにゃのビニールから、パチンとかわいいおとがあがる。

「ねーえ、きいてる?」

 布マスクがずれおちそうなくらい、ぱくぱくお口を動かして女の子が言う。

「ずっと話しかけてるのに無視するからさあ」

 無視? 無視なんかしてないよ。でも、言い訳しようとしても、声が出ない。それに、言ってもこの子には届かない。

「いつもそうだよね、蛍ちゃんって」

 上履きがぎゅっと音をたてる。今すぐ泣いてしまいたい。でも、なぜか本当に悲しいときにかぎって涙は出てくれない。

 ぬるい教室で汗だらけの牛乳パックが、私の代わりに泣いているように見えた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る