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ぶかぶかの白衣に手を通す。ぼうしの付け方あってるかな。ふわっとした手触りがきもちいい。知らない家の洗剤の匂いはちょっときもちわるい。
スープにごはん、野菜にお肉、やりたい子の早い者勝ち。みんなはもう位置についてる、楽しそうにお話ししながら。
スピーカーから流れるわけのわからないアイドルの音楽、それに合わせて手遊びをする子たち。
目を合わせないように、いちにさんしごにん、ろくにん、と数えて、牛乳のストローを引きちぎる。ふにゃふにゃのビニールから、パチンとかわいいおとがあがる。
「ねーえ、きいてる?」
布マスクがずれおちそうなくらい、ぱくぱくお口を動かして女の子が言う。
「ずっと話しかけてるのに無視するからさあ」
無視? 無視なんかしてないよ。でも、言い訳しようとしても、声が出ない。それに、言ってもこの子には届かない。
「いつもそうだよね、蛍ちゃんって」
上履きがぎゅっと音をたてる。今すぐ泣いてしまいたい。でも、なぜか本当に悲しいときにかぎって涙は出てくれない。
ぬるい教室で汗だらけの牛乳パックが、私の代わりに泣いているように見えた。
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