第4話 始まりの悲劇4

 肉体強化に小柄なからだのお陰で追い付かれても簡単には捕まらない。

 父親のデルタが毎日訓練をしてくれたことが活きていた。


 弓矢が飛んできても剣で弾く、とても8歳の子供に出来る芸当ではない。

「このクソガキどもが」

「落ち着けバカ、そんなワンパターンだから避けられるんだよ」


「それにガキを相手に何を無駄なことやっているんだ」

 子供を馬で追いかけている。

 しかも魔法を使っているのだ。


 訓練した大人ならともかく8歳の子供ならば体力が切れるまで待てばいい。

 それが真の狙いだった。

 ガランとグルズは訓練して普通の8歳児よりも体力はあるが身体能力で馬に勝てるわけないし、体力が切れるのも時間の問題だった。


 しかも追い込まれた先は逃げ場のない崖の上。

「ガラン、追い込まれたよ」

「くそ、どうすれば」

 ガランとグルズの体力は走り疲れて残っていない。

「さらばだ悪魔の子達よ」


 兵士の1人が二人に向けて弓矢を放つ。

 死を覚悟したとき、二本の矢をグルズがガランを庇うように前に出た。

 矢は腹を突き刺さり、地面に倒れた。

「おいグルズ。大丈夫か」


 刺さった2本の矢から出血し、地面に広がっていく。

「グルズ、大丈夫か何で俺を庇ったんだ」

「ガラン、いや兄さんには今までずっと守られてきた」


 小さい頃グルズが1人で森にはいってモンスターに襲われた時いつもガランが兄として弟を守って戦ってた。

 モンスターが家に入ってきたときもそうだ。

 いつも怪我を負って、それでもグルズを守った兄の姿に憧れていた。


「だから兄さんを守った。いつもいつも僕のせいで怪我をさせてしまってごめんなさい」

「喋るな、大丈夫。必ず俺が兄さんがお前を助けてやるから」


 血を止めようと手で出血したところを押さえようとするが一向に流れが止まらない。

「心配することはないさ。2人ともすぐに親のところに行けるんだから」


 逃げ場のない崖の上。

 詰められる距離、このままだと二人とも助からない。

 崖の下は流れの早い川がある。


「こうなったら仕方がない。一か八かだ」

 このままここにいても殺される。それならかけるしかない。

 そう思ったガランはグルズを抱えながら崖下へと飛び降りた。


「おい、ガキが自ら飛び降りたぞ」

 50メートルの高さから飛び降りれば例え水だとしてもコンクリートに打ち付けるようなもの。

 万が一水面の衝撃が弱くても水深が浅ければ頭を水底に叩きつけられるかもしれない。


 助かる保証はない。だがこの賭けにガランは全てをかけるのだった。

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