第5話 始まりの悲劇5

 何メートル流されたのか分からない。

 だけど肉体強化によって何とか一命を取り留めたガラン。

 賭けに勝つことは出来た。

 だが、出血しているグルズは虫の息だ。


「おい、グルズ。しっかりしろ」

 陸に引き上げて必死に声をかけるガラン。

「兄さん。何処にいるの」

「何処にいるって目の前にいるだろう」


「あ、そうか。まだ夜は明けてないんだね。真っ暗で何も見えないよ」

「真っ暗ってお前は何を言って・・・まさか」

 夜が明けて日の光が差し初めた中、ガランが見るグルズの目に光が灯してなかった。


 グルズの視界には何も映ってなかったのだ。

「真っ暗でも兄さんの声は聞こえるよ。さっきまでお腹が痛かったのに少しづつ楽になってきているんだ」

 

「止めろ、そんな話をするな」

「体は自由に動けないけどでもなぜか気持ちがいいんだ」

「止めろ、止めてくれグルズ」


「もう痛みを感じないんだ。だけど今ものすごく眠い」

「止めろよグルズ」

 ガランの目から涙が溢れ出してくる。


 グルズは川に飛び込んだときに1リットル以上出血をしているのだ。

 今ガランと会話ができているのも奇跡に近いものだろう。


 ガランはグルズの頭をそっと抱き寄せた。

「頼むから1人にしないでくれ」

「大丈夫だよ。僕たちはいつでも一緒じゃないか、生まれてからずっと、だから・・・・」


 その言葉を最後にグルズの力が抜けた。

「おい、嘘だろグルズ。しっかりしろ」

 いくら呼び掛けても返事が帰ってこなくなった。

「うわぁあぁああぁ」


 声にできない悲しい叫びをあげるガラン。

「嘘だろ。嘘だと言ってくれよグルズ」

 泣き叫ぶガラン、それを絶望の淵へと追い詰めるかのようにグルズの体が徐々に透けていく。


「おいグルズ、お前の体どうしたんだ。何で薄くなっているんだ。消えるのか、そんなの嫌だ」

 必死に消えないでくれと声をかけるものの、言葉は届かない。

 薄れていくグルズの体はその場から姿を消してしまった。


「おいグルズ、何処にいった、何で消えたんだ。答えてくれよ」

 グルズは死に、死体はその場から姿を消した。

 いくら辺りを見回してもグルズの姿は何処にもない。


 唯一あるものといえば、地面に置いてある親からもらった剣、しかもグルズのものだけだった。

「何でこうなったんだ。俺たちがいったい何をしたというんだ。たった一晩でこんなこと」


 形見であるグルズを剣を抱えながらガランは泣いていた。

「おい、いたぞ。悪魔の子達だ」

 そんなガランの心情に構うことなく兵士達は見つけたガランに再び剣を向けた。

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