エピローグ 結婚式
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結婚式の日。お祝いの花火が打ち上げられ、2人は永遠の愛を誓う。2人の未来は今、始まったばかりだ。
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結婚式の日は、夜明けの礼拝の時間を告げる合図があったあとは、引きも切らずにディルムン各地で花火が打ち上げられた。大がかりなものもあれば、庭先で子どもたちが上げる小さなものもある。ただ例外なく、花火の音には楽しそうな歓声や笑い声が伴った。
3週間前にアブラハム国王が皇太子ユーセフの婚約を発表するや、国じゅうがお祭りムードになった。独身でハンサムな皇太子に売約済みの札が付いたこと――しかも、金髪碧眼の異教徒にあっさりさらわれてしまったこと――を嘆き悲しむムスリマは多かったが、新聞・雑誌でもテレビでも、皇太子の弾けるような笑顔とそれに劣らぬほど輝かしい未来の皇太子妃の笑顔を見せられるうちに、だれもがこの結婚を祝福したい気分になっていた。おまけに才色兼備の皇太子妃なら、この国の未来もふたりの笑顔と同じくらい明るいものになるだろう。
「お誕生日、おめでとう、ユーセフ」
ジェニファーは数時間前に夫になったばかりの人の頬に軽くキスをした。
「ありがとう、ジェニファー」
ユーセフはこのあとの数時間を待ちきれない思いで、自分を愛に溺れさせた美しい妻からキスを受けた。
7月のディルムンはあいかわらずの暑さだったが、ふたりの新しい門出となった今日ばかりは、このからりとした天気がありがたく思われた。
いつものように日没の眺めは華麗なスペクタクルショーを見るようだったが、宵闇に包まれてからの花火も、おそらく一生忘れられないほど美しい華を、この記念すべき一日に添えるだろう。
「ぜひ、イスラム教の教義にのっとったほんとうの結婚式もしてみたいわ」
「もちろん、もう一度やることになる。だが花婿は婚礼の派手な衣装を着て花嫁の家まで迎えに行かなくてはならないんだ。きみは今日式を挙げたけれど、わたしと分かれてご両親と一緒にオレゴンに帰らなくてはいけなくなる」
「花嫁の婚礼衣装もそれは美しいものだそうね。ナーヒードに聞いたの。それをどうしても着てみたいの。だけど、今聞いた話だと正式な結婚式は当分、お預けだわ。だってわたし、いまはアメリカに帰りたくないもの。そんなに長いあいだ、あなたと離れてなんていられないわ」
「ああ、わたしもきみにオレゴンに帰られたら困る。そうだ、婚礼衣装を着るだけなら、こちらで着て写真を撮ればいい」
「そうね、とりあえずは衣装を着て、ふたりで写真を撮ればいいんだわ」
「それがいい。あの衣装はかなり手の込んだものだから、脱がせるのもたいへんで、なかなか刺激的にちがいない」
「ユーセフ、いったいなにを考えてるの」
「もちろん、きみと同じことだ」
ジェニファーがきっとユーセフをにらんだ。
「まあ、そんなことを考えているなんて、わたしの王子様は困った人ね」
「しかたがないよ。なにしろわたしはきみに首ったけなんだから。美しい人。きみは今日のあの夕焼けや今夜の花火よりもずっとずっと美しい。そして、なにより、きみはわたしだけのものだ。愛しているよ、ジェニファー」
魔法の時間がおとずれた。王子の目がいつものようにとろりとした熱っぽい光を浮かべ、熱い唇がジェニファーの口を覆った。そしてジェニファーは、今宵の花火に負けない、めくるめくような夜の到来を感じていた。
― 完 ―
【漫画原作】黒髪のシークと砂漠で恋におちて ― Burning Love in Desert ― スイートミモザブックス @Sweetmimosabooks_1
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