第14章 邪神との戦い

 四天王達は自分達は今まで一体何をしていたのだろうかと困惑した表情で暫く立ちつくしていた。


「皆目を覚ましたようだね」


「オレ達は……何をしていた?」


「貴方方は邪神の力により操られてしまっていたのよ」


カイトさんが言うとジャスティスさんが未だに困惑した顔で尋ねる。それにサキさんが簡単に説明した。


「邪神って何だ?」


「兎に角、お兄さん達こっち来て。そこにいると危ないよ」


「えっ?」


シエルさんの言葉にケイトさんが言うとアイクさんが意味が分からないといいたげに首を傾げる。


「ああ、もう! いいからこっち来てなさい」


ケイコさんがしびれを切らしたように言うとイヨさんとケイトさんとマコトさんと一緒に四天王の腕を掴み無理矢理自分達の方へと連れ込む。


「忌々しい……腕輪の力さえなければ」


「おっと、レナお嬢様に手は出させませんよ」


その時うわごとの様にルシフェルさんが言うと赤黒い光が私の方へと飛ぶ。しかしマサヒロさんがナイフでそれを切り裂いた。


「ねえ、11年前にルシフェルが邪神に取りつかれたって、そのことと瑠璃王国が攻め落とされた事とは何か関係があるの」


「11年前のあの日。俺達は大切な娘を喪った。迷いの森の奥深くに封印されていた邪神の力によってな」


アオイちゃんの質問にカイトさんが憎しみを込めた眼差しをルシフェルさん……いや彼の中に憑りついている邪神へと送り話す。


「邪神は世界を支配する為に人間に憑りついた。それがルシフェル様です」


「父上に?」


タカヒコさんの言葉にアレク君が驚いた顔をする。


「そして邪神に操られてしまったルシフェル様は瑠璃王国を攻め落とし手始めに倭国を支配下に置いたのさ」


「そういわれてみれば王国が攻め落とされたのもちょうど11年前ですね」


サトルさんの言葉にハヤトさんが記憶を辿り話した。


「そしてその触手は別世界で幸せに暮らしていたレナの家族にもおよんだのよ」


「へ?」


サキさんの言葉に私は驚く。邪神の力が私達家族を狙ったって事?


「いつか瑠璃王国の姫と神々や精霊に守られた腕輪を持つレナがこの世界へと来ることを恐れ、レナを亡き者にしようと企んだんだ」


「だけどそれはレナの家族達が阻んだことにより失敗に終わる。彼等は自分の命と引き換えに時空の扉を閉ざし二度とレナの前に現れないようにした」


「扉が閉ざされたことによりレナがこちらに来ることもできなくなり、安心したんでしょうね。これで自分の邪魔をするものが1人減り瑠璃王国の姫が革命軍を率いてやってきたとしても自分の力さえあれば簡単にやっつけられるって」


マコトさんが言うとケイトさんとイヨさんが話す。私は信じられない話しに頭の中が真っ白になった。


「ちょっと待て。その言い方だとレナの家族が火事で死んだのはルシフェル……いや邪神のせいだってことか?」


「左様です。お屋敷の地下には時空の扉があり、そこからこの世界へと行き来する事ができるようになっておりました。それを知った邪神はレナ様を殺すために時空の扉を通りお命を狙ったのです」


「なるほど……11年前からすでにレナさんがこちらに来ることは運命づけられていたということですね」


ユキ君の言葉にマサヒロさんが説明する。それを聞いてトウヤさんが納得して頷いた。


「はい、その通りです。レナお嬢様が後々自分にとって脅威になるため排除しようとしたのですが、時空の扉が閉ざされたことで行くこともくることもできなくなりました」


「だけど、レナちゃんは今こうしてここにいるじゃないの」


タカヒコさんの言葉にアゲハさんが疑問に思い尋ねる。


「さっきレナの家族が命と引き換えに扉を閉ざしたと言っただろう。その時魂が一時的にこちらへとやってきて俺達の夢の中に現れたんだ」


「そして自分達はもう娘を守ってあげられない。だから私達にレナの事を頼むとお願いされたの」


カイトさんが説明するとサキさんもそう話す。


「ルナを殺した邪神が別世界で幸せに暮らしていたレナの家族を殺した。それが許せなかった」


「だから私達は11年前のあの日大切な人を守れなかったあの日に。最愛の家族を喪ってしまったレナを守ろうって決めたの」


マコトさんが鋭い目つきで邪神を睨むとイヨさんが力強い口調で語った。


「だから、時が来るまでの間ずっとオレ達は待ち続けた。レナお嬢様がこちらへと来る日を」


「その間とても悲しい思いをさせ続けたことは心が痛みます。ですが邪神からレナ様を守る為にも俺達が接触するのは避けた方がよかったのです」


サトルさんの言葉にマサヒロさんが申し訳なさそうな顔をしながら言う。


「それで時が来たからレナを迎えに行った……ということか」


「理解できたかな? それじゃあそろそろ邪神討伐に行こうか」


キリトさんが納得しているとケイコさんがそう言った。


「待て、今の話が本当ならルシフェル様は邪神に乗っ取られているということですか」


「おや、話しを聞いてくれていたのかい。そう。我等が帝王様は邪神に操られている。邪神を引きはがさねば帝王様はずっと操られたままだ」


シェシルさんの言葉にカイトさんがそうだと説明する。


「成る程……瑠璃王国の姫よ。一時休戦だ。帝王様をお助けするため貴様等に力を貸す」


「ずいぶんといきなりだね。アオイ勿論答えは決まってるよね」


「勿論よ。手伝ってくれるならとても有り難いわ」


シエルさんが理解したといった感じで言うとアレク君がアオイちゃんに目配せした。それに彼女も嬉しそうに微笑み答える。


「それならこれよりオレ達はお前達に力を貸す。ともに帝王様を助け出すぞ」


「……信じていいんだろうな」


「お姉さん達と戦う理由が無くなったんだもの、これ以上警戒してても意味ないと思うよ」


ジャスティスさんが言うと武器を構えた。ユキ君が未だに警戒したまま尋ねるとアイクさんがそう言って笑う。


「帝王様をお助けする為に、今はお互い背を預けるとしましょう」


「四天王がお力をお貸しくださるというのは心強いですね」


シェシルさんの言葉にイカリ君が言うとお互い頷き合い武器を構える。


「そんじゃ、アゲハ。オレ達も派手に行くか」


「ええ」


キイチさんがパペットを操り態勢を整えるとアゲハさんが勿論って感じで微笑む。


「如何すればいいの」


「まずは帝王の中から邪神を追い出さねばなりません」


「レナの腕輪に宿った神々や精霊の力を結集してルシフェルへと向けてぶつけるの」


「分かりました。やってみます」


アオイちゃんが弓を構えて尋ねるとマサヒロさんがそう説明する。イヨさんの言葉に私は頷くと腕輪をしているほうの手を握りしめ祈る。


すると部屋の中にざわめきを感じて見やると沢山の神や精霊の姿があり彼等は光を1つにまとめると一斉にルシフェルさんの方へと押し寄せていく。


「ぐぬ……忌々しい力よ」


「父上!」


ルシフェルさんが憎らしげに呟くとその場に倒れ込む。その様子にアレク君が慌てて声をかけ駆け寄ろうとするが、途端に彼の体からどす黒い霧が発生したのを見て足を止める。


『神々と精霊風情が我の邪魔をするか。ならば貴様等まとめて闇の底へと葬ってくれるわ』


「あれが邪神」


黒い霧が一塊となると空間に浮かぶ黒い身体に血のような赤い瞳の竜が姿を現す。その様子にアオイちゃんが呟く。


「気を付けて、邪神が何か仕掛けてくるよ」


ケイコさんが言うのと同時に相手が一声唸ると私達の方へと黒い霧が立ち込める。


「この霧を吸い込んではいけません。皆さんの武器で切り裂くのです」


タカヒコさんの言葉に皆は武器で霧を引き裂いた。


「今だよ。邪神へと一気に攻撃するんだ」


「分かりました」


「やってやるよ」


カイトさんの言葉にハヤトさんとユキ君がまず邪神の下へと駆け込み一太刀食らわせる。


「おれ達も続くぞ」


「はい……はぁっ!」


キリトさんが後に続くとイカリ君も一撃を食らわせる。


「オレ達も行くよ」


「邪神だかなんだかしらないけど、私の踊りに酔いしれなさい」


キイチさんがパペット(狼)と(熊)を使って相手を切り裂くと、アゲハさんが舞を踊りながら邪神の懐へと入り鉄扇子で攻撃した。


「これもついでにもらってください」


「ぼくだってやる時は決めるよ」


彼女の攻撃が切れた途端にトウヤさんが放ったチャクラムが相手へと当たる。そこにアレク君がロングソードを構えて斬りかかった。


「我等四天王の力を見るがいい」


「行くぞ」


「ボクの技に驚くなよ」


「さあて、本気で行きますか」


四天王が合わせ技を繰り出すと相手はよろける。


『愚かな人間達め。その程度で我を倒せると思ったか。食らえ』


邪神がすぐに態勢を立て直すと黒い稲妻が落ちる。が、それは神々や精霊の加護により打ち消された。


「アオイ様。邪神を倒す事はできません。ですからその矢であいつを射貫くのです」


「倒せないってなんで?」


マサヒロさんの言葉にアオイちゃんが不思議そうに尋ねる。


「邪神といえども神の1人です。滅ぼすことはできませんがその矢に封じ込めることはできます」


「なんだか腑に落ちないな」


彼の言葉にユキ君が納得できないって顔で呟いた。


「今はこれでいいのです。この先何100年か経った時真に決着がつくことでしょう」


「それどういう事?」


「さて、それはおれも予言書に書いてあったことをお伝えしているだけですので詳しいことは分かりませんよ」


トウヤさんの言葉にアオイちゃんが尋ねるが彼は小さく笑ってはぐらかすかのように答える。


「兎に角邪神が攻撃してくる前に早く早く」


「早く早く。その矢に力を込めて」


「そしてレナ。貴女の腕輪の力を使うのよ」


ケイトさんが言うとケイコさんも急かす。そこにサキさんが私へと声をかけてきた。


「は、はい……アオイちゃん」


「うん。レナ、やろう。……行くわよ。破魔の矢よ我に今一番の力を」


「お願いです。アオイちゃんに力を貸してあげて下さい」


私は慌てて返事をするとアオイちゃんへと目配せする。彼女は小さく頷くと弓を構えて狙いを定めた。


私も今までで一番強い祈りを腕輪へと捧げる。すると黄金の輝きがアオイちゃんの持つ弓矢に宿っていく。


「食らえ!」


『ぐぉぉぉぉおっ! おのれ人間……おのれ神々……おのれ瑠璃王国の姫!! これで終わりだと思うなぁあっ』


アオイちゃんが力いっぱい矢を放つとそれは邪神の額へと見事に命中する。するとまるで吸い込まれていくかのように相手は矢の中へと入り消えた。


「父上!」


「ぅ……アレクシル。我は……我は今まで何かとてもひどい夢を見ていたように思う」


「父上……父上がご無事でよかったです。これでもう大丈夫です。悪い夢は終わりましょう」


アレク君が倒れたまま動かないルシフェルさんへと駆け寄りゆさぶり起こすと彼が小さくうなりとても弱弱しい声でそう呟いた。


目を覚ましてくれたことに安堵しながら彼がほっとした顔でそう話す。


かくして倭国を恐怖に陥れ支配していた帝王ではなく帝王の中に入っていた邪神を破魔矢に封じ込めた事で世界は平和になった。


邪神が二度と暴れないようにと破魔矢は祠に祀られ厳重に封印の術が施される。


そして正気を取り戻したルシフェルさんが今までの行いを反省しこれからは罪滅ぼしのために瑠璃王国再建に尽力すると言ってきた。


アオイちゃんはそれを了承し皆で瑠璃王国再建へと向けて協力して国を作ることとなる。


これが後の世で歌われる聖女伝説の幕開けであった。

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