番外編 本編後 腕輪の継承者

 麗奈がつけていた神秘の腕輪はその後娘に継承されると代を重ねて受け継がれていった。しかし元々神や精霊の力で作られた代物なので、それを受け継ぐ資格を持つものは純粋な心を持ち神や精霊と友達になれる者でなければ継ぐ事ができなかった。


それから約100年後の事だ。腕輪を受け継いだ末裔の者の家に子供が生まれた。長男である真人なおとはおとなしくて優しい性格の男の子だった。しかし腕輪を継承すると思われた彼は6歳を過ぎてもその兆しは一向に現れずそれならば次男の栄人えいとが受け継ぐのかもしれないと周囲は噂する。


しかし次男の栄人は直人とは違い、正義感に厚く、はっきりと物を申す性格をしていた。そのため腕輪の継承者としてはふさわしくないのではないかと大人達は議論する。色々な話が飛び交ったが、継承の日とされる6歳の誕生日を迎えるまで様子を見ることとなった。


しかし彼が6歳になっても一向に兆しは見えず結局腕輪の後継者とはならなかった。そして最後に残ったのは三男の優人まさひとである。彼は兄2人と比べたら幼いころから頭がよく賢い子で、はっきりと自分の意志を周囲に伝えられるそんなしっかりとした性格の男の子だった。この子がダメならもう他に継承する者はいないだろうと周囲は半ばあきらめていたのだが、彼が継承の日を迎えたとたん母親の腕輪が眩いばかりに輝くとそれは光の粒子をまとい1匹の狼の姿になる。


そして狼はじっと優人の瞳を見詰めると、再び光を放ち彼の左手首にまとわるように煌きが移り、そしてそこには神秘の腕輪がしっかりとはまっていた。


こうして腕輪は三男である優人へと確りと継承されたのだ。


「……ぼくや栄人じゃ継承できなかった腕輪を、優人がしっかりと継承してくれて安心した。もしぼく達の代で受け継ぐ者が誰1人としていなかったらご先祖様になんてお詫びを言えばいいのかと考えてしまったよ」


「そうだな。ケイトやケイコに一生からかわれて終わることになっていたかもしれないし、また継承できなかったら俺は自分を許すことはできなかっただろう」


「お兄様達はそんなに自分を責めて生きてきたのですか。でももうそんなことしなくても大丈夫ですよ。これからは僕がちゃんとこの腕輪を受け継ぎます。ですからお兄様達は自分が本当になりたいと思う道へ進んでください」


無事に継承の儀式を終え子供部屋へと戻って来ると真人が安堵の溜息とともに今まで抱え込んでいた悩みを口に出す。


それに相槌を打った栄人が自分自身へと厳しい目を向けて語る。兄達の言葉に優人は驚いたものの安心させるように微笑み話した。


「それならぼくは叔父さんの後を継いで人形使いになる。ケイトとケイコに認めてもらうには時間がかかるだろうけど……でもご先祖さまから受け継いできたからくり人形をこれからも守っていくのも腕輪を受け継ぐのと同じくらい大事な事だと思うから」


「俺は父上に教わっている剣術を極めて武士になる。そしていつの日か聖女様を助けた麗奈様のように神子様をお守りしこの世界に平和をもたらすんだ」


「僕達が生きている間に破魔矢の信託が行われるかどうかは分からないのにですか?」


真人が夢を語ると栄人も力強い口調で話す。それを聞いた優人が不思議そうに尋ねる。


「それでも武士になりたい。そして大人になったら弱きを助け、悪を倒す正義の武人としてこの世界にはびこる悪い奴等をやっつけるのさ」


「栄人お兄様らしいですね」


真剣な眼差しで語る兄の言葉に優人はおかしそうに笑う。


「ぼく達3人の果たさなければならない義務も将来の夢も全く違うけれど、でもいつまでもこの3人で力を合わせて生きていこうね」


「勿論だ」


「はい」


真人の言葉に2人は力強く頷き3人は拳を作り軽くぶつけて誓いを交わす。こうして直人は人形使いになるために叔父に志願し技術を学ぶ。栄人は武士になるために剣の修行を積み、優人は腕輪の継承者として神々や精霊との対話を続けた。


こうして3人はそれぞれの夢をかなえるために歩み出す。これは運命のほんの始まりに過ぎないことに彼等はまだ気付くことはなかった。

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