第55話 魔王



 ◇冒険者side





 ――冒険者ギルド・多目的会議室



「さて、今頃ヒムロ君達はどうしていますかね?」


「予定通りに事が進んでいれば、今頃森の中心部の制圧が完了しているだろう」


「それはそうでしょうが、予定通りに事が進んでるとでも?」


「…………」



 このギルドのサブマスターでもあるグルミの言葉に、俺はただ押し黙るしかなかった。



 現在、時刻は18時を回ろうとしている。

『ティドラの森』の広さから考えると、既に大部分の制圧が完了していてもいい時間である。

 本当に何事も起きてなければ、今頃ティドラから取れる素材の回収でもしているかもしれない。



「偵察部隊が消えたのはCランク以下のチームだけなんですよね? 今回の作戦では全てのパーティがBランク以上の冒険者で構成されているみたいですし、大丈夫なのでは?」



 そう楽観的な発言をしたのは、受付を担当している職員のイザベラだ。

 彼女はたまたまお茶を注ぎにきただけなのだが、俺達の会話に興味を示したのか、手を止めて耳を傾けていた。



「イザベラ、受付の仕事はどうした」


「今日はBランク冒険者が出払ってしますし、暇なんですよ。それに、お茶出しの仕事だって受付の仕事ですよ?」


「だったら、さっさと注いで出て行け」


「そう言わずに教えてくださいよ~。私だって冒険者ギルドの一員なんですからね?」



 そう言って少し色っぽい仕草で肩に手を置くイザベラ。

 彼女はこの色気でギルド職員を何人も食っているようだが、何故か問題には発展していない為、今のところは注意以上の対応を取れていない。

 優秀な職員でもあるので、ギルドマスターの俺からもあまり強くは言えないでいるのであった。



「……外部には漏らすなよ?」


「それは勿論♪」



 調子よく返事をするイザベラに俺はため息を吐きつつ、先程の質問に回答する。



「確かに、派遣した偵察部隊の内、消息を絶ったのはCランク以下で構成されたチームだけだった。その為、Cランク以下の冒険者を狙った盗賊がいるのではないか、という意見が多かったのも事実だ。しかし、それにしてはあまりにも証拠が残っていないのが不可解なんだよ。それに加え、偵察隊の装備はお世辞にも高価とは言えなかった。それを敢えて狙う盗賊がいると思うか?」



「全員奴隷にするのが目的だったとか?」


「可能性は無くはないが、それならわざわざ冒険者を狙う意味もないだろう」


「……では、ギルマスは魔物か何かの仕業だと思っているのですか?」


「……俺の勘ではな」



 盗賊が奴隷にする目的で新人冒険者を狙うというケースは、少ないながらもある。

 ただ、リスクも高いうえに足も付きやすい為、余程の上玉・・でもいない限りは狙われることなどほとんどない。

 仮に狙われたのだとしても、標的となる女だけが攫われ、男は処分されるのが普通だ。


 しかし、今回行方不明になったパーティは、男女問わずメンバー全てなのである。

 これは、わかっているだけでも40名近い人数の冒険者が消えているということであり、明らかに異常な数字であった。

 普通の盗賊が、これだけの人数を攫うことなど、まず不可能だろう。

 可能性があるとすれば敵国による工作だが、そうだとしても余りにも痕跡が少な過ぎる。

 何の痕跡も残さず、それだけの大規模な拉致を行うなど、普通の方法では絶対にあり得ない。


 ……つまり、今回の件は、普通ではない何かが起きたということである。

 そして、それを実行できる存在がいるとすれば、人間以外の何かである可能性が高い。



「ギルマスの勘は当たりますからねぇ……」


「それも、悪い内容に限って当たるんですよね……」



 イザベラとグルミは、示し合わせたかのように顔を合わせて笑う。

 それには反論したかったが、正直俺にも自覚はあるので再び押し黙るしかなかった。



「ギルマス! 大変です!」



 そんな微妙な空気を割くように、イザベラと同じく受付を担当しているカリスが会議室に入ってくる。



「噂をすれば、ってヤツですかね?」


「かもしれませんね。カリス、何事ですか?」


「ヒ、ヒムロ君達が、帰ってきました! でも、その……、かなり疲弊していまして……」



 俺はカリスの言葉を聞き終える前に会議室を飛び出す。

 動揺しているカリスから話を聞くより、直接本人を確認した方が早いと判断したからだ。






「ヒムロ! 無事か!」


「……無事では、ないですね……」



 そう答えたヒムロは、外傷こそほとんど無いものの、見るからに疲弊しきっていた。

 これは限界まで回復魔法をかけられた状態と見て間違いないだろう。



「他のパーティメンバーはどうした!?」


「アスカとシンヤは、怪我が酷いので診療所で治療中です……。他のメンバーは……、みんな、死にました」


「っ!? それじゃあ、まさか、サイセツも……?」


「……はい。サイセツさんは、俺達を庇って、森に残りました。恐らくもう、生きてはいないでしょう」



 なんということだ……

 あのサイセツまでも、死んだというのか……


 現役を退いたとはいえ、サイセツは未だにBランクの上位に数えていいくらいには優秀な戦士であった。

 だからこそ今回の討伐に参加してもらったというのに、まさかアイツ程の男が……



「……一体、何があったのだ?」


「魔物の襲撃に、あいました。大量のゴブリンに、オーク、それにケンタウロスやヴァンパイア、人狼も……」


「馬鹿な!」



 偵察は昨日も行っているんだぞ!?

 そんな大量の魔物、いきなり現れるハズがない!



「姿は確認していませんが、ゴブリンの統率者もいたようです。いや、恐らくは他にも……」


「他のパーティはどうした!」


「……わかりません。他のパーティの状況を確認する余裕は、ありませんでした。自分達が逃げ出すだけで、精一杯だったんです。それでも……、タマやヒースが犠牲に……」



 そう言ってヒムロは項垂うなだれてしまう。


 彼の状態を見れば、どれ程過酷な状況だったかは容易に想像がつく。

 サイセツに庇われ、パーティが半ば壊滅状態となり、それでやっとのことでここに辿り着いたのだ。

 恐らくは心身ともに、限界寸前なのだろう。


 しかし、それでも彼はここに来た。

 理由はもちろん、俺達に情報を伝える為だ。

 だからこそ、俺はヒムロに問う。



「敵の正体は、わかったんだな?」


「……はい。敵の正体は……、サモナーです」


「っ!?」



 ヒムロの回答に、周囲で聞いていた者達がザワザワと騒ぎだす。

 しかし、事の重大さを正確に把握している者はほとんどいなかった。



「ギルドには、心当たりがあったんですよね?」


「……サイセツから聞いたか」



 確かに、ギルドには召喚魔法を使用する魔物がいる可能性があると報告があがっていた。

 しかし、不確定な情報な上に今回の件とは関係無いとされ、議題にはあがらなかったのである。



「……サモナーということは、敵は魔族ということですか?」



 横で聞いていたイザベラが疑問を投げかけてくる。



「恐らくは、な……」



 魔族や魔物に属する獣人には、サモナーのような特殊なジョブを持つ存在がいる。

 特に魔族は人間並みに多才なジョブを持つとされ、歴史上でもいくつかの目撃報告がある。

 そのどれもが伝説とも呼べる存在であり、人類にとっては等しく脅威となっていた。

 だからこそ、幻だとかおとぎ話だとかだと判断されやすいのだが……


 もし今回現れた存在が魔族であるのならば、伝説で語られるように危険な存在となる可能性が高い。

 しかも、よりにもよってサモナーという極めて危険なジョブ・・・・・・・・・でとなると……



「ギルドマスター、俺には、アレ・・がどうしても、そう思えてならないんです……」



 ヒムロの言いたいこと、俺には聞くまでもなくそれがわかってしまった。

 何故ならば、俺も同じことを考えていたからだ。



「アレが……、アレこそが……、『魔王』と呼ばれる存在なんじゃないかと……」




















あとがき

◇◇◇――――――◇◇◇

これにて、第一章完結となります。

第二章は現在執筆中で、ある程度ストックができたら公開していく予定です。


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それでは、今後も『仲間に裏切られたハズレ職『サモナー』の僕は、死んだあと魔王に召喚され指揮官兼参謀として新たな人生を歩む』を宜しくお願いします<m(__)m>

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仲間に裏切られたハズレ職『サモナー』の僕は、死んだあと魔王に召喚され指揮官兼参謀として新たな人生を歩む 九傷 @Konokizu2

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