第54話 打ち上げ



「どうやら、終わったようだな」


「っ!?」



 後ろからかかった声に驚いて振り向く。

 そこには、魔王ザッハ様が立っていた。



「魔王様、いらしてたのですか……」


「少し前からな」


「っ! そうだったのですか……。すみません、全然気が付かなくて……」


「良い。集中してたのだろう」



 確かに、今回は広いマップ全ての状況把握に努めていたので、かなり集中をしていた。

 ここまで集中したのは、ゴブリンの巣から命からがら逃げだした時以来かもしれない。



「それより、何人かの冒険者を逃がしてしまったようだが、アレで良かったのか?」


「はい。今回の目的は殲滅ではないので、各パーティから少人数は意図的に逃がすつもりでした」



 匙加減は現場に任せたため、中には完全に壊滅してしまったパーティもあったが、概ね予定通りと言って良いだろう。

 あとは生き残った者達が正確に情報を伝えてくれれば、作戦は成功だ。



「そういえば、会議の時にそんなことを言っていたな。しかし、それで上手くいくのか?」


「そればかりは、結果を見てみないことにはなんとも言えません。ただ、効果自体は確実にあると思います」



 民主的組織は、問題が発生した場合、まず決定を先送りにする傾向がある。

 特に緊急性のない課題の場合、それが顕著にあらわれるものだ。


 恐らく今回の場合は、穏健派と強硬派のような感じで対応について意見が分かれるだろう。

 さらに、多くのBランク冒険者を失ったことで責任追及の話などで揉めることが予想される。

 多くの人材を失ったことにもなるので、立て直してすぐに討伐隊を編成しなおすというのも難しい。


 以上から、今後『ティドラの森』への干渉は大幅に減ることが予想できる。

 将来的には再び討伐隊が編成されることもあるだろうが、少なくとも1~2年は時間を稼ぐことができたハズだ。



「では、ドーナからの報告を期待するとしようか」



 そう言って、ザッハ様は上機嫌そうな笑顔を浮かべて去っていった。



(さて、と。じゃあ、皆を呼び戻そうかな)





 ……………………………………



 …………………………



 ………………





 食堂では現在、ちょっとした打ち上げのようなものが行われている。

 参加者は今回戦いに参加したメンバーと、クーヘンさん、ドーナさん、ワラビーさんである。

 僕はクーヘンさん達と一緒の幹部席のようなところに座っているが、隣のクーヘンさんが艶めかしく僕を触ってくるので正直困っている。



「レブル! これ美味いぞ!」


「そ、そう、それは良かったね」



 そんな僕の状況にまったく気づいていないククリちゃんが、僕の膝の上でウキウキしながら料理を食べている。

 体勢が体勢なので、クーヘンさんの誘惑で僕の下半身が反応しないか心配でならない。

 もし、反応してしまったら、ククリちゃんになんと言い訳をしたらいいのだろうか……



「クーヘン、そろそろやめなさい。レブル殿が困っているでしょう」


「え~、いいじゃない。折角の若い男なのよ? ドーナもどうかしら?」


「結構です。私は貴方と違って飢えていませんから」


「私だって飢えてるワケじゃないわよ? 若い子は別腹ってだけで」



 そう言いながらも、なんだかんだクーヘンさんは僕へのスキンシップをやめてくれた。

 やはり単純にからかっていただけなのだろう。



「ありがとうございます、ドーナさん。あ、そうだ、コレ、部屋から持ってきたんですけど、良かったらどうぞ」



 僕は部屋から持参したクッキーを出すアーティファクトを出す。

 宴会向けの品だと思って持ってきたのだけど、ドーナさんはこれを気に入っていたので丁度良かった。



「っ!? ありがとうございます。いただきます」


「ほう? これはなんじゃ?」


「お菓子を出すアーティファクトみたいです。良ければ皆さまもどうぞ」



 どうもこのアーティファクトは僕の部屋にしか置いていないらしい。

 クーヘンさんもワラビーさんも、興味深そうにクッキー箱を見ている。



「あら、美味しいわね」


「はい。これは素晴らしいものです」



 心なしか幸せそうな顔でクッキーを食べているドーナさん。

 どうやら本当に気に入ってくれているようで、他の料理にも手を付けずクッキーばかりを食べている。

 あんなに美味しそうに食べてくれるのなら、持ってきた甲斐があったというものだ。



「ふふん♪ 中々気が利くわね、レブル君。これは出世するわよ~」


「レブル殿は既に魔王軍のトップ2と言える立場です。これ以上の出世となると魔王になるくらいしかありませんよ」


「あら、いいじゃない。レブル魔王陛下。ザッハよりも魔王らしくなるんじゃないかしら」


「そんな! 僕なんかじゃ絶対務まりませんから!」



 魔王の資質は、強さにだけ依存するものじゃないだろうけど、やはり強さは重要な部分と言えるだろう。

 その点で言えば、僕はこの中で誰よりも劣っている自信がある。

 将来性を期待しての話かもしれないが、今のところ僕に務まるとは全く思えない。

 ジョブもサモナーだし、将来性自体全くない気がする。

 そもそも僕、ザッハ様にしもべとして召喚されたんだしね……



「カッカッカ! 今回の働きぶりを見る限り、あり得ん話じゃないのぉ!」


「ワラビーさんまで、やめてください! 自分がまだまだなことくらい今回の件で身に染みてますから!」



 今回の作戦の成功は、クーヘンさん達幹部の協力があってこそと言えるだろう。

 僕一人の力では、絶対に成し得なかったハズだ。

 組織での取り組みなので当たり前だと言えるかもしれないが、彼らの細やかな気遣いがなければ、ここまで上手く事は運べなかったハズだ。皆さんには感謝してもしきれない。



「そう謙遜しなくても宜しいかと。今回レブル殿は、事前に危機を察知し、しっかりと手を打ったのです。新人としては十全の働きだったと言えるでしょう」



 ドーナさんが追い打ちをかけるように僕を褒めてくる。

 クールな彼女に淡々と褒められると、なんだか恐縮してしまう。



「はは……、え~っと、あ、そうだ! そういえば、捕らえた冒険者はどうなりましたか?」


「ああ、それでしたら、やはり回復は不可能でした。<バーサク>は命を燃やし尽くすスキルですので」


「そうですか……」



 リウルさんを相手に最後まで戦い抜いた軽騎士は、その健闘を称えたリウルさんの手により回収された。

 しかし、その軽騎士の使った<バーサク>というスキルは、どうやら命を代償に大きな力を得られるスキルだったらしく、回収された時には既に瀕死の状態だったのである。

 一応医療班に治療を任せたのだが、どうやら駄目だったようだ。



「はい。ですので、彼については私の眷属にいたしました」


「そうですか……、って、ええぇぇぇ!?」



 眷属にしたって、吸血鬼化したってこと!?



「何か問題があったでしょうか?」


「いえ、ないですけど……」



 僕としても人間側の情報は聞いておきたかったので助かるんだけど、こんな反則っぽいやり方っていいのだろうか……




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