隠し事

 『隠し場所』は、ほぼ宇宙だった。

 どうやって成層圏を抜けてきたのかの記憶がない。

「オゾンホールよ」

「や、さすがにそれは嘘っす」

「鋭いわねぇ」


「ご機嫌いかが」

 フローライトが声を掛けると、『それ』はゆっくりうなずいた。

 地球と宇宙の境目に、巨大な門と、その前に巨大な『それ』。

「『獅子ししの門』よ。今は夏だからこっちなの」

「夏が何の関係があるんすか?」

 フローライトは、他の方向を3つ示した。

「春、夏、秋、冬、と4つ門があるの。夏はここ、『獅子の門』よ」

 春は牡牛が守る『牡牛おうしの門』、夏は『獅子の門』、秋は『わしの門』、冬は『天使の門』。

「ごきげんよう」

 ユリーカも、挨拶してみた。獅子は、ユリーカにもゆっくりとうなずいてくれた。

「質問いいすか」

「獅子に訊いてごらんなさい」

 フローライトは、ユリーカの訊きたいことが判ってるようだった。


「あーあー。ごほん」

「珍しく緊張してるわね」

「うるさいす」

 獅子はユリーカを見ていた。

「財宝とかあと色々とか、って宝物、誰が何のために隠してるんですか? 『あと色々』って、何ですか?」

 ユリーカは、さっきフローライトにはぐらかされた質問をぶつけた。

<……………>

 獅子はすぐには答えなかった。フローライトは答えない。

 ユリーカは待ってみた。獅子がなんだか、待っていれば答えてくれそうな気がしたからだ。答えに詰まってる風にも、だんまりを決め込む風にも見えなかった。

 ただ待った。


<………よろしい。あれは、時が来れば、人間に必要になるものだ。必要になるかもしれないし、不要になるかもしれない。それは、これからの人間次第だ。

 あの中にあるのは、これからの人間を助けるもの。

 その時になれば渡されるもの。

 時が来なければ渡さないもの。

 すべては、人間自身が決めるものだ>


「わかるようなわからないような」

<まだ解るまい>

「で、誰が?」

<いずれ人間がそこまでいけば、おのずと思い出すだろう>

「『思い出す』? 知ってるんすか!?」

<知っている>

「え、知らないっすけど!?」

<時を待て>


 それきり、獅子は答えてくれなかった。

「そろそろ帰りましょうか」

 フローライトに、やんわりと連れ出された。

 獅子に一礼する暇こそあれ、帰りはフローライトに掴まれたユリーカのホウキは、気付けば家の前だった。

 200Km/h くらいあった気がする。

 これからはヘルメットが要るんだろうか。



**************************************************************



 あれから数日。

 晴れた日の下で、ユリーカはスマホをいじっている。

 フローライトは、向こうで花を摘んでいる。


 魔女の家。ふと思いついて、ネットで魔女を探し、弟子入りを申し込んだ。

 しかし、他の時、他の人にはそれは出来ない。

 魔女はそこにいるけれど、魔女の世界に触れることは、『時が来た』時、人、にしか出来ないのだ。


 それもまた、『世界の隠し事』



                          END

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魔女と世界の隠し事 紫風 @sifu_m

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