第6話
なんでいつも私だけ、世話を焼いてばっかりなんだろう。
一人っ子で誰かの面倒をみるなんて考えたこともなかった。
彼氏にするなら大人の余裕を持った気遣いができる人がいい。
それなのに、どうして片岡くんのことばかり気になっちゃうんだろう……。
プレゼン当日。私は不安げな顔つきで会議室の椅子に座っていた。なんか後輩を通り越して、彼に関しては弟子というか子供のような感覚だ。
(あれだけ頑張ったんだから大丈夫!)
私はいつの間にか、心のなかで片岡くんにエールを送っていた。
あれから今日まで何度も残業し、添削を繰り返して最強のプレゼンに仕上げた。私も口出しはしたが、後半はほとんど片岡くんが作った。あとは噛みさえしなければ大丈夫だ。
「じゃあ次は片岡要くん。お願いね」
「はっ、はい。よ、よろしくお願いいたっし、します!」
うわー、噛みそうだな。
私は頭を抱えた。それでも他の人に見えないように小さくファイティングポーズを作って、片岡くんを応援する。
「噛んじゃっても大丈夫だから、最後まで続けることを意識して」
昨日の練習で私はこうアドバイスをした。
彼の場合は間違えまいと必死になっているからこそ起こるミスだ。だから正確に読むことを意識しなければ、自然と上手くいくはずだ。
「それでは、はじめます」
社会人になってからはじめてのプレゼン。きっと誰よりも緊張していただろう。それでも片岡くんは最後までやりとげた。何度か噛んでしまったが、幸い話が止まってしまうことはなかった。
「以上です。あ、ありがとうございました」
片岡くんが頭を下げると拍手が起こった。何だか自分のことのように嬉しい。
「目の付け所がいいですね。それに細かいところまでよく調べられています」
上司はそう言って彼を誉めてくれた。そして、
「このアイデアをベースに企画を考えていきましょう」
と続けた。
はじめてのプレゼンは大成功に終わった。
私はデスクに戻ると片岡くんに缶コーヒーの差し入れをして言った。
「お疲れ様。よく頑張ったね」
「ありがとうございます。でも先輩……、いえ東条さんのおかげです」
「やっと先輩やめてくれた」
「すみません」
片岡くんは缶コーヒーの蓋をあけ、苦しそうに口をつける。
「大丈夫?! 具合悪いの?」
「いいえ、実は僕コーヒーが苦手で」
「えっ、じゃあ断ればよかったのに」
「それはできません。せっかく東条さんから頂いたものなので美味しくいただきます」
「いや罰ゲームみたいに飲まれても嬉しくないから……」
片岡くんは私の制止を振り切り、缶コーヒーを一気飲みした。
「これで目が覚めました! ありがとうございます!」
私は彼の背中をポンと叩くと、
「さあ、仕事頑張ろ」
と言った。
この可笑しくて気になる後輩の話を早く友達に聞いてほしい。愚痴なんかじゃなく、のろけ話みたいになっちゃうかもしれないけど。
「この前、教えたことだけど覚えてる?」
私の問いかけに片岡くんは清々くらいの申し訳なさそうな顔をして答える。
「すみません、忘れました!」
なんで私がこんな男子(やつ)に!? 藤 夏燦 @FujiKazan
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