第3話 その艦脅威なり

「ちっ。仕留め損ねたか。」


潜望鏡越しに曳航され、離れていく艦を見ながら呟いた米潜ドラムの艦長ロバート・H・ライス大尉は獲物を仕留め損ねた悔しさを潜望鏡越しに見える敵艦へと向けていた。


敵艦の上空には複数の航空機が乱舞し、哨戒を行っている。

多少距離があるとはいえ、いつまでも潜望鏡を上げているわけにはいかない。

すぐさま潜望鏡を下し、潜航を命じたロバートは先ほどの攻撃を思い返していた。


哨戒中に発見した大型艦に対し、四本の魚雷を発射した時、彼は戦果を期待していなかった。

搭載魚雷のMK14は欠陥魚雷として同僚達から不評と改善の要望の嵐だったからだ。

中には複数本が目標に命中したにもかかわらず、すべて不発で魚雷が突き刺さったまま悠々と逃げられたという潜水艦乗りにとっては最も屈辱的な目にあった同僚もいたからである。


その欠陥魚雷であったMK14魚雷が命中起爆した事を確認し、敵艦が火災を起こしながら急速に傾斜していくのを見た際には沈没確実と考えたが、どうして、日本の軍艦も立ち直りが早い。


わずか二時間足らずで艦の傾斜を復旧し、火災も鎮火させ、微速ではあるが自力航行を行うのは軽巡クラスの戦闘艦では難しい。

しかもあのタイプの艦の公式データでは艦内に航空機用の燃料タンクと輸送用の燃料タンクを持っているという。

いかにも日本らしい欲張った考え方だが、普通ならそれだけ通常の艦よりも抗堪性(こうたんせい)に劣るはずで、魚雷一本でも撃沈可能なはずだった。


なにより調音員が魚雷の命中とは異なる爆発音を確認しており、艦内の燃料或いは弾薬に引火したのは確実であるはずだった。だが現実に敵艦は火災も鎮火し、傾斜も復旧させ航行している。

真珠湾に現れた怪物戦艦といい、各地で報告されている高性能の航空機、兵器、艦艇。どれをとっても合衆国の物に勝るとも劣らない能力を発揮している。


それまで猿真似と馬鹿にしてきた日本軍だったが、その認識は間違いかもしれないとロバートは考えていた。


「艦長、確認取れました。」

副長のローランド中尉が分厚い日本海軍の艦艇名簿を広げながら声をかける。

公式、非公式に得られたデータを纏めた名簿には仕留め損ねた艦の名が記載されていた。


「フラットタイプの艦尾、複数の水上機、二基の大型デリック、間に屋根は無し。これに該当する艦はやはりこれ一艦のみです。」


副長の示したファイルをなぞり、ロバートは呻いた。

「やはりこの艦か。Seaplane(水上機) Carrier(母艦) MIZUHO(瑞穂)。」

この艦こそ後に米海軍から脅威と評価される艦であった。

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陽炎なる暁 @kai6876

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