―88― エピローグ

 ビュレットが崩れ落ちると同時、ビュレットの力は魔界へと退去していった。

 すると、代わりににそこにいたは、気絶しているディミトだった。

 魔人化した場合、元に戻るのか不安ではあったが、無事戻ってくれたのはよかったと思う。

 そのまま死んでしまったら目覚めが悪いからね。


 ただ、ディミトが魔人化したことは複数の人に見られているため、なんらかの処分はあるだろう。

 魔人化した場合、悪魔と契約したということで、罪に問われることになる。


 ビュレットの不協和音によって気絶していた人たちは徐々に回復していった。それから、異変に気がついた外部の魔術師がやってきては、人々の治癒に尽力した。

 幸い死人はいなかったらしい。


 問題は僕の悪魔の力が誰かに見られてないか不安だったが、これはなんとか無事に済んだ。

 みんな気絶してくれてたのと、仮に見られていたとしても、僕の魔術が悪魔と結びつく人はいなかったようだ。


 ちなみに、〈最後の宴〉は本戦が残っていたが、当然中止。

 予選だけの成績で、成績がつけられるらしい。

 本戦もやりたかったとはいえ、あんなことがあっては中止になっても仕方がないだろう。


 面倒だったのは、誰が魔人を倒したのか、調査が始まったことだ。

 魔人を倒した者には、侯爵直々に報奨が与えられるということだったが、僕は黙っておくことにした。

 正直、目立ちすぎるのは好きではないのと、どうやって倒したか調査されて、悪魔召喚のことまでバレてしまう危険性もある。

 そういうわけで、魔人を倒した者は名乗り出なかったため、わからずじまいということになった。



〈最後の宴〉から数日後、僕は第一希望だった最難関のプラム魔術学院への入学が決まった。

 まぁ、予選であれだけ活躍したんだ。

 入学できるだろうとは思っていた。


 あとは、ビュレットに関して。

 ビュレットは僕に一度敗れたが死んだわけではなかった。

 ただ、倒れたと同時に魔界へと強制的に退去させられたんだとか。

 なので今度、改めてビュレットを召喚して、オロバスの魔界での待遇を改善するよう伝えようと思う。

 いつまでもオロバスが魔界に戻れないという状況のままにしていくわけにいはいかないだろう。

 一度敗れたとこだし、今度は大人しく言うことを聞いてくれるかな、と楽観的ではあるがそんな展望を僕は描いている。






「ノーマン、この俺がすべて悪かった!!」


 ドアを開けると、そう言って、土下座をしている父親の姿が。

 その後ろには、あきれ顔の妹がいる。


「……ひとまず、中で話そうか」


 なんで父さんが、今更この家に来たのか想像はつく。


「それで、僕を追い出した父さんが一体、なんのようだ?」


 そう言うと、父さんは汗を額に浮かべた。


「お前を追い出したのは浅はかだった」

「それで?」

「……エスランド家に跡取りとして戻ってきてほしい」


 やっぱり、そういうことだよな、とか思う。

 さて、どうしようか……。


「ディミトはどうした?」

「あ、あいつは魔人化した罪を償うことになる。前科者が跡継ぎになるのは難しい」

「別に、不可能ではないはずだ。魔人化したのは不可抗力な側面もある。だから重い罪はならないでしょ。だったら、跡継ぎとして問題ないと思うけど」

「こ、侯爵様がおっしゃったのだ。ノーマンでないと跡継ぎとして認めないと。ノーマンが戻ってこない限り、エスランド家は取り潰しだ」


 か細い声で、父さんがそう呟く。

 こんなに、弱々しい父親をみるのは初めてだな、とか思う。


 さて、どうしたものかな……。

 チラリと妹のほうを見る。妹は「やれやれ」といった様子であきれ顔をしていた。

 この国では、男児しか家督になることはできない。

 妹は遠くない未来、別の家系に婚約者として嫁入りすることは決まっているので、エスランド家が取り潰しになると決まっても、妹は貴族のままでいられるだろう。

 だが、実家の取り潰しが決まっているは外聞が悪いのは事実だ。実家の取り潰しが決まっている妹を誰がもらってくれるというのだろうか。

 妹のことを考えたら、僕は跡取りになるべきなんだろう。


 だからって、「はい、わかりました」と、返事をするのも父さんのいいなりに従ったみたいで癪に障るな。


「わかりました。父さんの言うとおり、エスランド家に戻ってもかまいません」

「ほ、本当か……!?」


 父さんはぱあっと明るい表情になる。


「いいの、お兄ちゃん? そんな簡単に許しちゃって」


 妹がそう口にする。


「僕としても学院に通う以上、援助は必要だしね」


 もし、貴族に戻れないならダンジョンにでも潜って学費を稼ごうと思っていたが、援助を受けられるなら、それにこしたことはない。


「ただし、条件があります」

「条件だと……!?」


 父さんが生唾を飲む音が聞こえた。


「ディミトの処遇については、僕に決める権限をください」

「あぁ、それはいいだろう」


 ディミトが養子として来てから好き勝手過ごしたらしいからな。お灸を据える必要性がありそうだ。

 てなわけで、僕がなんとかする権限をもらう。


「それと……ネネ、少し部屋の外に出てくれないか?」

「……わかったわ」


 察してくれたのか、妹は部屋の外に出て行く。

 これから父さんに話す内容は妹にはまだ聞かせるわけにはいかない。


「僕が魔術が使えるようになったのは、ある秘密があるんです」

「秘密だと?」

「はい」


 そう言って、魔導書『ゲーティア』を取り出す。

 そして、父さんに説明した。

 悪魔召喚に関することをかいつまんで。

 それと、魔人を倒したのも僕であることを伝えた。これで、悪魔の力に関して恐れを抱くはずだ。


「悪魔召喚は、この国では禁術として使用が禁止されているのは、もちろんご存知ですよね?」

「あぁ、それはもちろん」


 そう頷く父さんの表情はどこか怯えているようだ。

 僕がたくさんの悪魔を使役しているってことを説明したからだろう。


「なぜ、僕の秘密を父さんに説明したかわかります?」

「け、見当もつかない」

「僕はこれからも悪魔召喚を極めるつもりでいます」

「そ、そうなのか……?」

「そのときの後ろ盾になってほしいんですよ。もし、裏切ったら、殺します」

「わ、わかっている! お前を裏切るなんてとんでもない。俺にはお前の力が必要なんだよ!」


 ひとまず脅しとしては十分か。

 今度、機会があれば、悪魔の力を存分に見せてやろう。そうすれば、父さんは僕に逆らうことができなくなるはずだ。

 これで父さんを共犯者に仕立て上げることには成功した。


「それにしても、お前がそんな恐ろしい力を物にしていたとはな」


 父さんがそう口にする。


「驚きました?」

「いや、納得だ。あれだけ活躍したのも、悪魔の力をもってしてなら、納得できる」


 まぁ、悪魔たちの力がなければ、僕もここまで成長することできなかった。

 悪魔たちにはホント感謝しかない。




 僕は、より魔術を極めるつもりでいる。

 その頂きに辿り着くためなら、どんな手段でも利用するつもりだ。

 それが例え、禁術:悪魔召喚だとしてもかまわない。

 魔導書『ゲーティア』は72の悪魔を使役するため魔導書。

 そのうち僕が使役できたのは、まだほんの一部でしかない。

 72柱すべての悪魔を使役できたとき、僕は恐らく魔術の頂きへと至ることができるはずだ。


「そのためには、まず、序列13位ビュレットを使役することから始めようか」




 第二部 ―完― 



あとがき

これにて第二部終了です。

お読みいただけきありがとうございました。

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アルス・ゲーティア ~無能と呼ばれた少年は、72の悪魔を使役して無双する~ 北川ニキタ @kamon

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