第29話 7/17『夏の雨空から聞こえる嘆き その1』

 翌日。

 熱気に包まれながら

あゆりちゃんと食事をする。


「……翼さん?」


 テーブルで考え事をしていると

首を傾げながら、俺のほうを心配そうに見つめてくる。

 自然と昨日のことが頭に浮かび、

なかなか箸が進まない。


「今日の料理お口に合いませんでした?」

「いやそんなことないよ、今日も非常においしいよ」

「そ、そんな、茶化さないでくださいよ」


 少々俯き、恥ずかしい様子をさせ

顔を紅潮。

 すると視線を逸らし、膝の上に手のひらを重ね擦ると

軽く上半身を揺らした。


「今日は自然活動部の日です。遅れないように、早く食べましょう……ね?」

「うん、そうだね。待たせたら悪いか」


 その甘い口振りを聞くと、

自然と強ばった表情が柔軟になる。


 朗らかな顔で視線を向けてくる。

 少々苦笑い気味だが。


 昨日のこともあり、こちらを心配してくれている。

 あえて言いよどませているだろうが、

とても、もうしわけなく感じる。


 食事を終えて、身支度を終わらせる。

 時間は余裕持っているので、少し早めに出て。


「そろそろ行きましょうか」

「あぁ。忘れ物はない」


 引き戸を開ける。


「うわ、あっつ……」

「今日は35度超えるらしいですよ、途中倒れないか心配です」

「喉渇いたら買ってあげるよ、熱中症は危険だしね」


 外に踏み出すと、セミの鳴き声とともに

強烈な熱臭が漂ってきた。

 炎天下の中を、俺とあゆりちゃんは歩き、

学校への道を進む。


 道中。

 考え事をする。


 美里――。

 なにがお前を締め付けているんだ?

 いつものお前なら、余裕振りを見せているというのに。

 昨日のことを思い出すだけで

心が痛む。


 強い彼女を蝕む存在。

……父親だろうが、どうすればいいんだ。

 とても1人で太刀打ちできそうな

相手ではなかった。


 考えに考える。


 するとあゆりちゃんが立ち止まり、

こちらを見返る。


「翼さん、あまり美里ちゃんのこと深く考えないでください」

「家のこととはいえ、私は――私たちは彼女を恨んではいません」


 3人には切っても、離せないものがあるのだろうか。

それはいったいなにか。


「むしろ私たちは信じているんです、いつか美里ちゃんが帰ってくるその日を。断ち切れない絆が私たちにはありますから。なのでそんな深刻そうな顔しないでください、一緒に待ってあげましょう、彼女の帰りを」


 信頼。

 会える頻度が減ってしまったとはいえ、

そこには、見えない3人の絆と信頼があった。


 ああ。

 そうだよな、あゆりちゃんの言うとおりだ。

深々と考えるよりかは、

今はみんなとの時間を作る

これがなによりも大切。


「そうだよね、俺も待つよ。美里が帰ってくるのをさ」

「えへへ、いつもの翼さんの顔に戻ってくれた。ほっと一安心です」


 美里、

入ったばかりの俺がいうのも

あれかもしれないが、

俺は、お前が帰ってくるまで困らないように、

居場所を整えておく。


「翼さん、もうすぐ学校ですね。陽香ちゃんが待っています」


 それが今

俺のできることだから。

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雨が降りやむ頃に もえがみ @Moegami101

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