第4話

 いつまで待っても、電車は来なかった。

 シュウとツバサは、仕方なく近くのファーストフード店に入った。店員が足りないため、ドリンクしか売っていない。二人はそれぞれ、ホットコーヒーとアイスティーを注文した。

 店内はがらがらだった。

 突然、サイレンが鳴り響いた。ドリンクを作っていた店員は慌てて店の奥に引っ込んでしまった。

 見たこともないような強い光と、聞いたこともないような奇妙な音が突然降ってきた。二人は慌てて抱き合った。

 しばらくして、シュウはゆっくりと目を開いた。かなりぼやけていたが、それでも、周囲が何も変わっていないらしいことはわかった。腕の中のツバサも、しっかりと息をしている。

 窓の外も、何も変化がないように思われた。しかし、何かがおかしかった。シュウは次第に鮮明になってくる視界の中で、足りないものを探した。

「月がない……」

 ツバサが呟いた。

 言うとおりだった。空のどこにも、月が見当たらなかった。

 そして、遠くから灰色の群れがこちらに向かってくるのがわかった。テレビの中で見たことのある、宇宙軍の戦闘機が近づいてきていた。

「ツバサ……」

 シュウは、強く強くツバサを抱きしめた。

「先輩……」

 そして、ツバサも強く強く、シュウのことを抱き返した。



 収容所の体育館の中では、日本対ロシアの試合が行われていた。

 シュウは華麗なスリーポイントを決めると、隣のコートに目をやった。そこでは日本対アメリカの女子の試合が行われており、控えのツバサはベンチに座っていた。

 観客席の宇宙人たちは、ポイントが入るたびに拍手喝さいした。かれらは野球やサッカーの試合も喜んで見たが、特にバスケットボールがお気に入りだった。

 シュウはディフェンスに戻ると、リバウンドを拾い、再び速攻でゴールを奪った。体育館の中は大いに盛り上がった。

 試合をしているのは、全て若者たちだった。地球に襲来した宇宙軍は、大人たちを皆殺しにし、若者たちを捕獲した。

 宇宙人のふるさとに連れてこられた若者たちは、何らかのスポーツをさせられた。宇宙人は、新たな娯楽を求めて地球を襲ったのである。

 宇宙人の目論見どおり、大人たちから冷遇されていた若者たちは、宇宙人に敵意を抱かなかった。なにより、世界中の人たちと、思う存分ゲームができることがうれしかった。

 試合が終わると、シュウはツバサの元に駆け寄った。

「いい汗かいたよ」

「先輩、かっこよかったですよ」

 二人は、本当に楽しそうに、笑っていた。誰もが、笑っていた。

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銀と青の空 清水らくは @shimizurakuha

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